2005年10月1日

 時間軸で見れば、子供はやがて青年となり大人へと成長し親元を離れ自立する。その時間軸の中に、それぞれの家庭のドラマがある。父と息子の場合を例にとると、思い浮かぶドラマのキーワードは、反抗、崩壊、葛藤、理解、修復といったところだろうか。


 先週、父と息子をテーマにした3本の作品

 

「小さな贈りもの」<LARGER THAN LIFE>

(1996/アメリカ 

監督:ハワード・フランクリン 

主演:ビル・マーレイ/ジャニーン・ガロファロー)、

 

「故郷への遠い道」<TIGER WARSAW>

(1988/アメリカ 

監督:アミン・Q・チョードリ 

主演:パトリック・スウェイジ/バーバラ・ウィリアムズ)、

 

「ビッグフィッシュ」<BIG FISH>

(2003/アメリカ 

監督:ティム・バートン 

主演:ユアン・マクレガー/アルバート・フィニー/ジェシカ・ラング)

 

を観た。
 どの作品にも共通しているテーマは、父と息子の絆だった。若いがゆえ、他の表現をすれば、人生経験がないゆえに、息子は少年期、青年期に父親を理解できないまま、あるいは誤解したまま大人になっていく。しかし、やがて大人になった息子は、初めて父親の考えていたことやその行動の真の意味を知る。

小さな贈りもの
 主人公ジャックは、幼い頃父親は亡くなったと聞かされていたが、突然弁護士から父親の死の知らせを受けたことにより、実は今まで父親はサーカスのピエロとして生きていたことを知る。知らされた内容は、遺産が借金三万五千ドルと1匹の大きな象のヴェラ。ジャックは借金返済のためヴェラを売るために象との旅を始める。その途中で父親のサーカス時代の友人に出会い父親の理解に変化が生まれる。ヴェラはある特別な芸を持っているが、これは父親の指示によってのみなされるものだった。ジャックが父親を理解し始めたのと時を同じくして、ヴェラのジャックに対する理解が生まれ、ヴェラはその特殊な芸をジャックの支持によって再演し、二人は名コンビとなる。
 作品はコメディータッチではあるが、息子が父を理解していく心境の変化やヴェラとの心のふれあいがあふれるロードムービーだった。

 故郷への遠い道
 チャックは少年の頃、父親とのこぜりあいの最中に誤って発砲し傷つけてしまい家を飛び出てしまう。15年後、父親が精神不安定になっていたことを知らないままチャックは帰郷する。チャックが一番修復したかった相手は父親だった。だが崩れた関係を修復するには、あの事件は重すぎる事実であり容易ではなかった。そんな中、チャックはまたある事件を起こしてしまい、自暴自棄になり故郷を去ることを決意する。自分から壊してしまった父との関係だったが、素直に謝る気持ちで帰郷したものの、そこでまた事件を起こしてしまい、修復のきっかけさえも完全に失ってしまう。しかし、そんなチャックに手を差し伸べたのは父親だった。
 親子であり、気持ちの中で双方に歩み寄る気持ちが真剣にある以上、その思いはきっと通じるだろう。しかし、そこに到達するまでの時間がどれくらいかかるのかは状況によりわからない、というのが現実的なところか。

 

ビッグフィッシュ
 子供の頃、ウィルは父エドワードの奇想天外なお話が好きだったが、ウィルの結婚式以来父親のホラ話にうんざりし二人の溝は深まった。だが、母親からエドワード病状悪化の知らせを受けウィルは帰郷する。病床でエドワードと最後の時を共にしたウィルは、彼にせがまれて彼の死ぬ光景を話し始める。しかしその話は、ウィルが子供の頃からずっと聞かされてきたエドワードの話の集大成だった。そしてエドワードの葬儀当日、ウィルは初めてエドワードの話が父親にとって真実だったことを知る。


 人を愉快な気持ちにさせたい、という想いから語られた事実に基づいた創作話を楽しむことができるか否かは、聴く本人次第だろうが、それには話をしてくれた相手への理解も必要になるだろう。「やさしい嘘」という作品があったが、この嘘とエドワードのお話はエッセンスとして同一のものといえる。


 エドワードがお話を通して息子に伝えたかったもの、きっとそれは優しさだったのだろう。優しさとは何か?を伝えるために、説教じみてしまったら子供は聞きたがらないが、お話というころもに包んでしまえば、それはすんなりと受け入れられる。エドワードが息子に知って欲しかったことは、父親の人生そのものであり、優しさでもあったのだろう。


   
 人間の成長からいうと、反抗期のない子供は親としてはかえって心配だ。かといってその反抗期がくれば、それはそれでまたやっかいなものだ。一般的に、子供の前に大きく立ちはだかる初めての障害物は親であろう。その障害物を乗り越えることで子供は成長していくし、同時に親も子供と一緒に成長していく。その過渡期の過ごし方によっては、映画のようなドラマが待っているかもしれないのだが、実はそのドラマがあることで、家族はより密になるような気がしている。