2003年10月17日

 

先日、

 

エアポート'03」<CODE 11-14>

2002/アメリカ
監督:ジーン・デ・セゴンザック
主演:デヴィッド・ジェームズ・エリオット

 

を観たのだが、今一つだった。

 内容は連続殺人事件を担当しているFBI捜査官の家族にも魔の手が伸びる、しかも離陸した飛行機のなかで、というものだった。

 作品が今一つだったのは、やはりストーリーによるところが大きい。刑事ドラマでいくのか、ハイジャックものでいくのかの展開が中途半端だったためであり、離陸後の捜査官と犯人の駆け引きや展開にも緊張感や意外性もなかったことなどがその要因だろう。

 だが、ふと思っことがあった。僕はこれまで似たような作品は相当観ているはずなので、もしかすると先ほどの作品自体は面白いのに、飛行機パニックものに慣れてしまい、新鮮さを感じることができなくなっているのでは?

 さっそく、過去に観た飛行機パニック作品を調べてみたところ、全部で23本だった。評価の内訳は、○が10本、△が5本、xが8本となっていた。結論としては飛行機パニックもので満足のいく面白い作品に巡り逢う確率は50%を切る、というものだった。


 ちなみに、○の評価作品は次のとおりだった。
大空港」(AIRPORT 1970/アメリカ)
「エアポート'75」(AIRPORT 1975 1974/アメリカ)
「エアポート'77・バミューダからの脱出」」(AIRPORT '77 1977/アメリカ)
「エアポート2001」(NOWHERE TO LAND 2000/アメリカ・フランス)
「エアポート'98」(MERCY MISSION: THE RESCUE OF FLIGHT 771 1993/アメリカ)
「エグゼクティブコマンド」(STRATEGIC COMMAND 1997/アメリカ)
「エグゼクティブデシジョン」(EXECUTIVE DECISION 1996/アメリカ)
「ザ・チケット 不時着機を救え!」(THE TICKET 1997/アメリカ)
「フリーフォール:FLIGHT174」(FREEFALL: FLIGHT 174 1992/カナダ)
「乱気流」(TURBULENCE 1997/アメリカ)


 上記の作品ではハイジャックや機体の損傷、気象悪条件などにより事件、事故が生じるが、娯楽作品であるため最後はハッピーエンドとなる。だが、現実では多くの人命が失われる飛行機事故が発生している。


 大型航空機による死亡事故は現在,100万回の飛行に対して2~3回の割合で発生するといわている。独立行政法人航空宇宙技術研究所の調査によれば、1954年~1998年における全世界の民間輸送機死亡発生収録事故件数は2716件だ。

 原因の第1位はパイロットを中心としたヒューマンエラーである。以下エンジン故障、構造や計器類の不具合などと続いている。しかし事故は単一の原因のみにより引き起こされるよりは、複数の要因が重なり発生する確率の方が非常に高いと考えられる。

 また死亡事故を中心とした2500件の事故の統計では、駐機・26件、走行・18件、離陸走行・60件、離陸時・62件、上昇・496、巡航・602件、降下・795件、着陸時・229件、着陸走行・43件、旋回・67件、不時着・25件、訓練や試験・23件、その他・40件、不明・17件との分析が明らかになっている。
 どのような事故にも必ずその前になんらかの兆しがあるといわれる。裏を返せば、その小さな兆しを探り出しその芽を潰すことに傾注すれば、次に起こる恐れのある大事故を防ぐことが可能になるともいえる。


 アメリカの産業災害研究者である「産業災害防止論」を著わしたハインリッヒは、

「1:29:300」という法則を明らかにしている。

 この数字は、同じ人間の起こした同じ種類の330件の災害のうち、300件は無傷で、29件は軽い傷害を伴い、1件は重い傷害を伴っていることを顕している。つまり、1件の重大な事故が起きる前に、300件の小さな兆しが存在しているということだ。


 アメリカでは、起きた事故を教訓にし再発防止の目的で、1966年に連邦運輸省を設立した際に運輸省内にNTSB(National Transportation Safety Board 国家運輸安全委員会)を設立した。1974年にはNTSBは独立政府機関に改められる。日本にもNTSBに相当する航空に関する航空事故調査委員会という機関はあるものの、その中身の在り方にについては多くの関係者よりさまざまな議論が交わされている。


 アメリカのNTSBは運輸事業の運営について規制、財政援助、直接関与の権限は持っていないため、完全に客観的な立場から、事故調査・勧告を行うことができる。対象とする事故は、航空事故、道路事故(踏切事故を含む)、鉄道事故、パイプライン事故、重大な海運事故、その他大災害・再発可能性のある事故である。そしてNTSBには他の機関に優先する調査権限が法律で与えられており、事故の発生後、鉄道会社、メーカ、政府機関等事故に関係する当事者も参加して調査にあたる。また、事故の原因に最も近いところにおり、技術的な知識を持ち事実確定、証拠収集をもっとも効果的に行えるのは当事者であるとの立場をとって調査に主体的に関与させている。しかし、指揮監督を取るのはあくまでもNTSBであり、調査結果を分析・評価し、報告書を出すのもNTSBとなっている。さらに、事故調査には弁護士等の司法関係者が関与することは許されておらず、NTSBの調査結果を責任追及のための裁判資料として利用することや、NTSBの調査官を裁判に召喚し証言を求めることは法律で禁じられている。


 特に、調査結果を責任追及のための裁判資料として利用することや、NTSBの調査官を裁判に召喚し証言を求めることを法律で禁じていることにより、日本では当然のように発生する過失責任論と事故調査論の混同が生じないような仕組みとなっている。それは、仮に事故を起こした当事者が重大なミスを含む過失を犯している場合でも、その真実が公表されることでその失敗の教訓を次に活かすことが可能となるような仕組みが採られているということだ。NTSBが優先することは事故当事者の過失責任ではなく、あくまでも事故調査による原因の究明である。そのような姿勢が、結果として事故当事者から事故原因に関する貴重な証言を引き出すことにつながっていく。言い換えれば、事故当事者に対しては、刑事裁判とは異なる事故原因調査の場が必要であり、この事故調査は犯罪捜査のために使われてはならないという立場が明確にされているからこそ、当事者から真実が語られることとなっている。しかし片方では、事故当事者が刑事罰を受けないという現実に対しては、事故を起こされた被害者遺族の感情を逆なですることにもつながる。どのような配慮をもって被害者遺族に対応するのかはとても重要なこととなる。
 

 既述のようにアメリカの例をみたが、今度はNTSBに相当する日本の航空事故調査委員会の改善が望まれる点を記したい。


 航空事故調査委員会では事故調査報告書だけは公開される。しかしその他の資料公開に関してはほとんど公開されていないというのが現状のようである。いうまでもないことだが、事故原因に関する情報や資料は、再発防止の観点からも説教的に公開、活用されていく必要がある。次に、航空事故調査委員会の中立性・独立性についてだ。「委員会の委員長及び委員は、独立してその職権を行う」と規定されている(航空事故調査委員会設置法第4条) が、組織的には運輸省の中に設置されている(第2条) ため、調査官を含む事務局スタッフの身分は運輸省所属職員であり、運輸省内で定期的な人事異動が行われる。従って委員会の職務の航空行政からの中立性・独立性という点では、あきらかに問題がある。それは事故の当事者である輸送機関組織自身による調査の信憑性の問題である。調査内容によっては刑事罰または民事の損害賠償の対象にもなりかねないことから、どこまで事故原因の真相の解明が行われているか、真実性、信頼性、公平性の点に問題が生じるからである。では、被害者やその遺族による調査はというと、遺族らが技術的、専門的知識の壁を乗り越えることは容易ではない。しかも、諸資料の入手や関係者からの聴取は極めて困難のため現実性は乏しい。そうであるならば、やはり双方に対して中立的な立場で臨むことができる機関にする必要があるだろう。それにより、事故当事者及び被害者や遺族の双方にとって公平性が保たれることとなる。 
 現行の航空事故調査委員会は、さまざまな問題を抱えているが、到達すべき目標は、事故再発の防止である。その目標を達成するための最善の方法を採択し、空の安全を確保してほしい。今後の議論の行方を注視したいと思う。