20010年10月31日

 前回に続いて、社会派作品を紹介する。

 多くの発展途上国が抱えている不法移民問題は、その国の政治や経済政策による高失業率、宗教、民族、内戦などさまざまな要因が密接に関わっているのが現実で、権力を持たない一般国民が自力で解決することは不可能に近い。その窮状から逃れる危険な方法のひとつに不法入国がある。

13歳の夏に僕は生まれた

<QUANDO SEI NATO NON PUOI PIU NASCONDERTI>
2005/イタリア 

監督:マルコ・トゥリオ・ジョルダーナ 

主演:マッテオ・ガドラ/アレッシオ・ボーニ

 

 裕福な家庭に育ったサンドロは、父が寝ていた夜中にクルーズ船から海に落ちてしまう。懸命に捜索するもののサンドロが見つかることはなかった。
 サンドロは、不法移民を乗せた老朽化の激しい小型船に救助されていたが、その船には法外な値段で不法に移民たちを入国させる悪徳業者と不法入国者が乗船していた。
 サンドロは悪徳業者たちに命を奪われそうになるのだが、不法移民の青年の機転により救われる。老朽化した船のエンジンが破損すると業者たちは移民を残したまま別の船で去ってしまう。しかし程なくして船は海上警察に保護され、サンドロの無事が両親に伝えられる。
 一方、不法移民たちは強制送還されることになるが、サンドロは命の恩人である青年とその妹を引き取るように両親に懇願し、二人はサンドロの家に引き取られるのだが、青年が未成年でないことや犯罪歴が判明し兄だけが強制送還されることになる。それを恐れたサンドロとほぼ同い年の妹は、兄と共にサンドロの家から金品を盗み逃走する。
 サンドロはやっとの思いで二人を探し出すが、サンドロが見たものは、不法移民として生きていくために体を売る彼女の姿だった。13歳のサンドロは悲しい現実を目の当たりにしどうすることもできずただ呆然とするだけだった。
 作品の概要はこのようなものだが、ラストシーンで頭を抱え座り込むサンドロの姿が印象的な作品だった。サンドロには問題があまりにも複雑で大きすぎた。
 僕がこの作品を評価している理由は、まさにこのラストシーンにあった。このような現実に気づいた13歳の子供にできること、それは、二人をなんとか助けたい、という純粋な気持ちを持つことだ。それ以外の方法を思いつかなくても仕方がないであろうし、頭を抱え座り込むのも無理はない。しかし角度を変えて見てみれば、それほどこの問題の大きさを理解したということにもなる。この理解こそが重要だ。
 13歳の夏にサンドラが経験し、そして理解した大きな問題意識は、きっと彼を成長させるに違いない。 そんな期待を印象付けるラストシーンになっていた。

 

ストレイドッグス ~家なき子供たち~

<STRAY DOGS >
2004/イラン・フランス 

監督:マルズィエ・メシュキニ 

主演: ゴル・ゴディ/ザヘド
 
 アフガニスタンのカブールが舞台。幼い兄妹の母親は刑務所に収監されている。
 戦争に借り出された夫の死を確信した彼女は、幼い子供二人を養うために他の男性と結婚した。それしか生きていく術がなかったのだが、夫が生きていたため重婚罪が適用される。元夫がそのことに怒り警察に通報したことで彼女は収監される。
 幼い兄妹は母といっしょにいたいため、母親が収監されている刑務所に通い、寝起きだけを共にする日々が続いていたが、優しい監督官が変わったしまいそれもできなくなる。それでもあの手この手で監督官に懇願するが願いが叶うことはなく、兄妹は寝る場所を探し街をさまよう。家庭がそのような状況であるため、二人はゴミを収集しお金を稼ぎ懸命に生きていく。

 ストリートチルドレンと言ってもいい子供たちのシビアな現実が描かれている作品であるが、大仰に悲壮感を漂わせるような演出は避けている。その分、こちら側に重く濁ったような思いが湧き出してくる。
 ラストはとても切ない脚本になっているのだが、このラストこそがアフガニスタンの抱えている現状を物語っていた。