2010年11月30日

 

 

扉をたたく人」<THE VISITOR>
2007/アメリカ 

監督:トム・マッカーシー 

主演:リチャード・ジェンキンス/ヒアム・アッバス

 

 初老の大学教授とアフリカンドラムのジャンベ奏者である不法移民青年との心の交流が描かれている)

向かいの窓」<LA FINESTRA DI FRONTE>
2003/イタリア・イギリス・トルコ・ポルトガル 

監督:フェルザン・オズペテク 

主演:ジョヴァンナ・メッツォジョルノ 

 

 子育てや食肉工場の仕事に追われ菓子職人の夢に近づけないジョヴァンナと、人のいいまじめなジョヴァンナの夫、向かいの家に住む独身男性、そして記憶喪失と思われたが実は有名な菓子職人の老人たちとの物語。彼女の心に芽生える明日への希望が徐々に力強くなっていくと同時に、選択せざるを得ないある現実に対する結末へのシナリオはとても切ないものだったが、この結末であるからこそ、本当の大人の物語と言える。

の両作品とも、僕の心に深くそして静かにじんわりと沁みていった実に深みのあるお話だった。

 両作品とも、気ぜわしくスピードの速い無味乾燥といっていい現代が舞台だ。その乾いた街に住む寂しさを抱えた主人公たちの虚無感は大きい。しかし、あることがきっかけとなり、彼らは明日へとつながるはずの扉に手をかける。
 
 「扉をたたく人」では、主人公は扉を全開することで新たな人生へと踏み出した。一方、「向かいの窓」では、主人公が扉全開の道を選択することはなかった。しかし、扉に手をかけたことで、新たな決意とともに再出発へ向けての人生をスタートさせる。

 両作品ともとても切ないヒューマンドラマなのだが、作品がしらけなかった理由は、やはり現実的なオチがそこにあったからといえるだろう。掴みたい何かのハードルが高ければ高いほど、掴んだときの喜びを人は知っている。だからこそ、人は理想に向けて走り続ける。しかし、希望や気概に対する行動が伴ったとしても、それらが叶えられる確率は決して高くはない。これが現実の社会であることを誰もがまた理解している。

 両作品では主人公の行動結果が完全な理想形にはならずとても切ない。しかし、この切なさがあったからこそ作品はよりリアルな物語となり、また、可能なことはすべて行い最善を尽くした主人公への賛辞と共感につながるのだろう。

 ハッピーエンドの物語はもちろん大好きだが、今回の作品のように決して優しくはない現実を下敷きにした作品もまたいい。おそらくそれは、とにかく前へ進もうとする等身大の自分自身を主人公にオーバーラップさせ物語を観ている僕自身がいるからなのだろう。