2007年11月30日

 

タイトルだけで手に取り購入した作品

 

東京日和

1997/日本 

監督:竹中直人 

主演:竹中直人・中山美穂

 

は、写真家荒木経惟氏と妻陽子さんの物語だった。

 この作品は荒木氏と陽子さんとの共著『東京日和』(1993年、筑摩書房刊)をモチーフにしている。
 1990年1月、陽子さんは42歳の若さで子宮肉腫という病気のために亡くなっている。その事実をわかりながら作品を観ていると、薄く淡いセピア色の画面がとても印象的な作品だったとことに気づく。その落ち着いたカラートーンが、荒木氏の妻に対する深い愛情と悲しみをよりいっそう際だたせており、全編セピア色が過ぎ去った過去を静かに演出し続けていた。


 作品の中で、バルコニーのテーブルに置かれた中山美穂が演じるヨーコの遺影がある映像と、彼女が洗濯物を干しながらいくつかのポーズをとる映像がある。この映像にとても切なく感じさせられた一方で、亡くなった今でも陽子さんは、荒木氏の心の中で永遠にいきていることをはっきりと理解することができた記憶に残る映像だった。


 情緒不安定な妻ヨーコ役は中山美穂。日々の理解に苦しむ言動や定まらない視線、そして心が別の世界にある深淵な女性を淡々と演じている。大仰でない演出が実にリアルで、夫である島津(竹中直人)の不安が僕にもひしひしと伝わってきた。それほど大きくもなく決定的な衝撃にならないような小さな日常の不安が、もし連続性を持ち、かつ継続性と持続性を備えたとすれば、もうそこには安堵の日々はない。そのような状況下でも、島津はヨーコを遠くから見守っている。ヨーコには島津のその優しさが辛かったかもしれないのだが、深く大きな島津の無垢な愛は、やはりヨーコの心に平穏を与えることになる。決して他人にはわからない二人だけの機微が確かにそこにあった。
 

 機微という言葉をゆっくりかみ締めることができる、静かではあるが優しさあふれる、とても満足のいく作品だった。