1996年10月23日

 米大統領選挙が、11月5日ー般有権者による各州合計538人の選挙人選びの為の投票日の投票に向け近づいてきた。現在のところ、民主党のクリントン大統領が依然として有利に駒を進めている。今のところ局面を大きく変えるようなオクトーバー・サプライズ(土壇場の10月に思わぬ波乱が起こること)も起きていない。おそらくクリントン再選となり来年の1月20日を迎えるだろう。 

 ところで、今回の選挙の特徴は、極端な内政思考ということだ。両陣営とも外交間題を正面から議論していない。それもそのはずで内政に様々な間題を袍えているからだ。教育、福祉、犯罪などの懸案事項が山積している。
 例えば私生児出産は今や全出産の29%にも上り、2015年には新生児の半数以上が私生児になると推測されている。また殺入については近年減少傾向にあるとはいうものの、ニューヨークでは本年末までに950件くらいの殺人が起こると見られている。麻薬についても、12~17歳の麻薬常習者が91年の5.8%から昨年は10.9%ヘと増えているなどと、内政重視にならざるを得ない。これが今の米の素顔なのだ。

 9月30日のギャラップ調査によれば、クリントン指示率57%に対して、ドールは32%と25ポイントもの大差をつけられた。 
 ギャラップ調査を引き合いにだしたのは、個人的に興味を引かれたからである。どんな調査でもそれなりのサンプル数があるのだが、この有名なギャロップ調査の対象となるサンプル数はとても少なく思われる。それは何件かというと、わずか1000人にすぎない。全米有権者を対象にして1000人とは余りにも少なく感じられる。もちろんギャロップ社は1000人とするきちんとした根拠をもっているのだが。もしこの無作為に抽出された1000人が、何らかの方法で無意識のうらに共和党か民主党かを選択させられていたとしたら、それは憂慮すぺきことだろう。 

 前置きが長くなったが、今回は大統領選挙と映画をリンクさせてみよう。
 ここから先の話は作家、広瀬隆氏の考察と文献を参考にさせてもらった。それをどうとるかはみなさん自身の間題である。

1960年「ルーズベルト物語」公開。ケネディー民主党が大統領になる。
1964年「博士の異常な愛情」「5月の7日間」が公開された。
これらの作品は核戦争と軍部の独走の脅威を描いている。この年はジョンソン民主党が当選。
1976年、ニクソン共和党のウォー夕ーゲート事件を描いた「大統領の陰謀」が上映され、カー夕ー民主党が当選。
1991~1992年は「JFK」が公開され、クリントン民主党が選出された。

 結果だけを見てみると、大統領をテーマにした話題作が公開されると民主党が勝利を収めている。そして昨年末から今年にかけて「アメリカン・プレジデント」「ニクソン」が公開された。観た方はすでにおわかりのことと思うが、これらの作品は民主党ぴいきの作品である。
 特に「アメリカン・プレジテント」では、マイケル・ダグラス扮する大統領が銃を規制しようとする。ー方現実ではクリントンは短銃規制法を成立させている。また作品は大統領のロマンスをきれいに嫌みなく描いている。作品の中で彼は対立候補に中傷されるが、逆に彼女を誹誇する対立候補に、小細工でなく正攻法で戦え、といい放ち、スマートで優しく、かつ力強いミスターアメリカを強調していた。こういう人が大統領だったらと思っても不思議ではない。                        
 また広瀬氏が示す大統領とハリウッド人脈の系譜にも興味深いものがある。
 共和党びいきの俳優には、ジョン・ウエイン、ゲーリー・クーパー、クラーク・ゲープル、チャールトン・へストンなど、この世をすでに去った人達が多い。
 ー方民主党では、ジャック・レモン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ヘンリー・フォンダ、ダリル・ハンナ、ロバート・レッドフォードなどがいる。ヘンリー・フォンダの娘であるジェーン・フォンダはチャイナ・シンドロームではジャック・レモンと原発の危険を警告していた。そしてそのジャック・レモンは「JFK」に出演している。このような幾つものつながりが広瀬氏の調べた書に記されている。
 系譜を見ていくと赤狩り、ベトナム戦争、人種差別、原子力、環境保護、ケネディー兄弟、キンク牧師の晴殺、核兵器、銃砲の氾濫、FBI、ClAの行動などを強く嫌悪する俳優たちには民主党寄りが多そうである。
 こういったハリウッド映画界の政治的バックグラウンドを頭に入れながら作品を鑑賞すると、また違った見方ができなかなか楽しめる。今回の内容はともかく、次期米大統領はクリントンがドールか、皆さんはどちらだと思いますか。