1996年8月14日
ロマンティックなラブ・ロマンス作品を観た後、柄でもないのにロマンティックな台詞をいってみたくなった時期が僕にもあった。ただそれは子供ができるまでの話で、子供が生まれてからは、ロマンティックな台詞から遠ざかってしまった。
たまには、昔みたいにいってみようかな、などとこの原稿を書きながらふと思った。えっ、誰にかって?もちろん妻にである。でも待てよ、今いうのは月並みすぎる。やはり後30年くらい経ってからいうことにしよう。そのほうが映画のようでいかしているだろう。
さて前回に続いて1980年代のロマ・ラブ・コメディー編といこう。
カール・スモーキー石井が人魚の映画を撮り終えたらしいが、 「スプラッシュ」とどちらがよくできているかを観比べてみたい。
トム・ハンクス、ダリル・ハンナ主演のこの作品は、メルヘンといってもいい。特にハンクスが彼女を追って海へ飛び込むエンディングは、僕に満足度100%を与えてくれた。こんなロマンティックな展開、僕の今までの人生にはなかった。
僕は子供のころ海で溺れかけたことがあり、それ以来足が立たないような深いところには決して行かないのだから、人魚に出会うこともないだろう。
「マネキン」
自分の作ったマネキンが、ある日突然かわいい女性になってしまいお互いに恋に落ちてしまう、というハッピー・エンドのファンタスティック・ストーリー。
昔プラモデルはよく作ったものだが、さすがにマネキンの製作経験はない。でも、もし自分が作ったマネキンがかわいい人間の女性になったら、僕はプロモーターになってひと稼ぎを考えるだろう。何たって人形が人間になったのだから世間が放っておくはずがない。
「ワーキング・ガール」
曲がよかったせいもあるかとは思うが(アカデミー主題歌賞を受賞)、ラストシーンで主題歌が入るタイミングは絶妙だった。
ビジネスに関して女性にはあまりチャンスが与えられない日本では、主人公テスのような行動を取ることはほとんど考えられないだろう。ただし、映画のように女同士の対決に関しては同じだろう。それと、ハリソン・フォードがテスに取った態度は、日本の男には難しいだろう。
「カイロの紫のバラ」
映画のヒーローが突然スクリーンから抜け出して、映画を見ている観客の一人であるミア・ファローと恋を語り合うという内容だった。
自分がスクリーンに入って行くというのは何度も想像したことはあるが、主人公がスクリーンから出てくるというこのパターンは考えたこともなかっただけに、大いに楽しめた。
また映画の登場人物が、あきれて物語の進行を中断してしまうというのもいい。なかなかしゃれた作品で、監督はウディー・アレンだった。
「天使とデート」
何といっても主演のエマニュエル・ベアールが可愛い。
内容は天使が空から落ちて来て青年と恋をし、最後は人間になれるというものだ。全編明るくテンポよくコミカルにストーリーは進んでいき、本当に楽しいロマ・ラブ・コメディーに仕上がっていた。
さてここでコーヒーブレークだ。
先日アンティーク時計好きの友人と屋台で飲む機会があった。
僕は時計にもアンティークにもあまり興味はないのだが、友人の話にとても引き込まれてしまった。なぜなら、その話が、とてもロマンティックだったからだ。
彼がその腕時計を気に入ったのは、その裏にフランス語で―愛するノーマへ1927・4・30―という文字が記されていたからだった。
腕時計の大きさは、今で言うボーイズサイズで縁取りは銀だった。
字盤は手書きで書かれており、数字が浮き上がっているように見える。
文字盤をルーペでよく見ると小さな染みのようなものが多数付着しており、時の長さを感じさせる。
文字盤下方には直径5ミリ位の丸い秒針盤がある。
時計は69年経った今も正確に時を刻んでいた。
僕らの思いはいっきに69年前へとタイムスリップしたのだった。
いったい贈り主は誰で、どのような理由で、ノーマにこの時計を送ったのだろうか。
そして二人の関係は?
親子なのか、恋人同士なのか、それとも金婚式を迎えるような仲睦まじい老夫婦なのか。
全て推測でしかあり得ないが、一つだけ確かなことは、贈り主はノーマを愛していたということだ。
69年経った今、この二人が存名しているかどうかは疑問だが、もし彼らのどちらかにでもこの愛情のこもった時計を戻すことができたら、こんなにロマンティックな話はない。
ちなみに、友人がこの時計を買い求めた理由は、奥さんへのプレゼントとしてだった。
時として、ロマンティックな話は映画だけではなく、僕らの足元にも落ちているのである。