1997年5月14日

 4月22日、午後3時23分、特殊部隊など約140人がペルーの日本大使公邸に突入し、事件は127日目にして決着した。その後の演説でフジモリ大統領は次のように語った。

―あらゆる平和的手段を尽くしたが、MRTA側が全く歩みよりを示さなかった。人質を無事に救出するために急襲作戦を選択した。我々は、国際社会に対し、ペルーがテロを容認せず、テロに屈しない強い決意を持っている姿勢を示すことができた―。

 このような事件での解決手段は、話し合いによる平和的手段と武力行使の手段がある。どちらを選択するかは諸条件によって変わってくるだろうが、国際社会ではテロに屈せず人命を尊重する、というのが大原則になっている。フジモリ大統領はまさにこの原則を示したといえる。

 今回はテロと特殊部隊について書いてみたい。以下、恵谷治氏の著作を参考にさせてもらった。
 ペルー政府の広報機関「プロムペルー」はゲリラを次のように定義している。


1.政府も無視しえないほどの民衆の指示がある。
2.局地戦では政府軍に対抗しうるほどの軍事力を持ち一定の地域を支配している。
3.政府を模した政治形態を備えている。


 裏返せばこれらの条件が欠けていれば、それはテロになる。テロとゲリラをあえて区別するならば、テロは目的と標的において無差別であるのに対し、ゲリラは政権奪取という、その戦いの目的と標的が明確であるということだ。今現在、世界でも危険極まりないテログループが多く存在する。


 代表的な強力テロリストグループを上げる。


アメリカ-ミリシア武装民兵[オクラホマ・シティの連邦政府ビル爆破事件に関与]
アメリカ-KKK[白人至上主義団体]
ドイツ-ネオ・ナチ[国家社会主義]
ドイツ-労働者党[国外組織]
ドイツ-アーリア人国家[人種差別主義団体]
コロンビア-ELN民族解放軍[ドミニカ共和国大使館占拠事件]
コロンビア-FARC[コロンビア革命武装軍]
インド-HUA[イスラム過激集団]
インド-ババル・カルサ[シーク教徒による最古の独立運動組織]
トルコ-PKKクルド労働党[マルクス・レーニン組織]
フランス-FLNC[コルシカ民族解放戦線]
イギリス-CLMCロイヤリスト合同軍事司令部[プロテスタント系過激派の統一組織]
スペイン-ETM/M[バスク祖国と自由[民族主義の軍事グループ]
アルジェリア-GIA武装イスラム集団[イスラム原理主義の過激派でパリ高速地下鉄駅の爆弾テロ]
エジプト-アル・ジハード[サダト大統領暗殺]
エジプト-IGイスラム集団[反イスラエル過激派集団]
イスラエル-カチ・カハネ・チャイ[ユダヤ人極右組織]
レバノン-HAヒズボラ[レバノン人シーア派組織]
パレスチナ-PFLPパレスチナ解放人民戦線[シリア系の左派過激組織]
パレスチナ-PLFパレスチナ解放戦線[イラク系組織]
パレスチナ-HAMASイスラム抵抗運動[完全独立をめざすイスラム原理主義組織]
サウディアラビア-ビヤト・アル・イマーム[ダハラン米軍宿舎爆弾テロ]。
 これらはほんの一例であり世界には数多くのテロリストたちが暗躍しているのである。

 ではテロリストに対する特殊部隊はどうなっているのだろうか。
 ペルーの場合はDINOES国家警察特殊作戦司令部が活躍した。各国とも特殊部隊をもっているのでここでは名称の列挙は避ける。まずは軍の特殊部隊の目的は敵の殲滅にあるのでほぼ間違いなくテロリストは射殺される。一方警察による対テロ作戦は、テロリストといえども可能な限りその生命を尊重するというのが原則である。イギリスではD11人質救出部隊。ドイツではSEK特別コマンド部隊。アメリカではHRT人質即応部隊などがある。

 特殊部隊の装備について見てみよう。
 対テロ作戦では通常の軍隊が保有しない特殊装備が使われる。中でも重要なのはスタン・グリネードで150kwの閃光と200デシベルの轟音により人間を確実に失神させる兵器だ。その兵器の爆発による光や煙、埃、破片などを防ぐための防護マスクや防弾ヘルメットも不可欠だ。その他、防弾ベスト、手の操作が不要の喉式通話装置やドアなどを破壊するためのショットガン用特殊弾、磁石付きの指向性爆薬、催涙ガス、高性能の個人携行火器。そして突入以前の情報収集をするための盗聴器、センサー、壁用の極細ファイバーレンズ、夜間暗視装置、またファイバーをさしこむ穴のための消音ドリルなど多岐にわたる。
 今度は作戦の一例を見てみる。
 たとえば突然超低空でジェット機を占拠された建物の上空に飛来させる。これは突然の轟音によって人質たちを本能的に低姿勢にさせ、突入部隊の人質に対する誤射を避けることを目的とする。この作戦はオランダの列車占拠事件で成功している。ソマリアのハイジャック事件では焚き火をたいて犯人をコックピットに集めることに成功した。あるいはヘリを使って隊員を屋上に下ろし相手の気を引くなど映画のようなあらゆる作戦が考えられる。いずれにしてもテロ対策については、前記したような国では余念がない。

 犠牲者は一人でてしまったものの、今回のフジモリ大統領の決断は、作戦、装備を含めて人質を100%無事に救出できるという裏付けがあったからこその突入だったのだと思う。国際社会におけるテロ対策というのをまざまざと僕たちに見せてくれたのである。