1997年6月11日

 

 

 僕にはお気に入りのシリーズものビデオがある。
「Xファイル」「ER」「シカゴ・ホープ」「プロファイル 精神鑑定医」「アメリカン・ゴシック」の5作品群だ。「Xファイル」についてはすでに書かせてもらった。
 今回は「ER」と「シカゴ・ホープ」の2作品について書いてみたい。
 この両作品はいわゆるメディカルものだ。どちらも見ごたえのある内容に仕上がっていて堪能できる。
 「ER」とは emergency room の頭文字だ。シカゴのクック群総合病院が舞台となっており、テンポの早い展開と熱いヒューマンドラマが医師と患者、時には医師自身に起きていく。
 制作はS・スピルバーク率いるアンブリン社と脚本家のマイケル・クライトンが担当している。一流のエンターテーメントに仕上がるのも理解できる。
 脚本は「ツイスター」「ジュラシック・パーク」を書いたヒットメーカーの前記クライトンが担当している。彼自身、医師の資格をもっているということだ。そうでなければここまでのリアリティーさを表現できずに終わっていただろう。この物語は彼の小説「5人のカルテ」が原点となっている。登場する主人公は4人の男性と2人の女性である。それぞれ6人のキャラクターがとても豊かに描かれている。一話一話のストーリー性もさることながら、何といっても彼ら6人のキャラクターの描き方がこのドラマの強みだろう。
 プレーボーイの小児科医ダグラス・ロスに扮するG・グルーニーは「すばらしき日」「バッドマン&ロビン」に出演。チーフ役の内科医マーク・グリーンに扮しているのはA・エドワーズで「トップ・ガン」「ペット・セメタリー」に出演。心臓外科医スーザン・リュィスにはS・ストリングフィールドが、看護婦主任のキャロル・ハサウェーには「アウト・フォー・ジャスティス」のJ・マルグリースがそれぞれ扮している。正式な外科医を目指す黒人男性のピーター・バーレンには「星の王子ニューヨークへいく」のE・ラサール。インターン大学生ジョン・カーターには「ア・フュー・グッドマン」のN・ホアイリーが扮している。ストーリーは緊急病院が舞台なだけにとにかくアップテンポだ。彼らは息をつくひまもないくらい次から次にくる患者たちに追われている。睡眠も2~3時間という超ハード・ワークだ。今、日本でのビデオリリースは1シーズンまでの全25話までだが、本家本元のアメリカではテレビオンエアーは3シーズン目に突入している。相変わらずの人気を保っているようだ。
 

 一方の「シカゴ・ホープ」は緊急病院ではないので、一つのできごとにじっくりと焦点をあてて物語が進められていく。一つのストーリーへの突っ込み方が奥深く、よりリアルにまとめられていると思う。
 シカゴホープとは、全米でも有数の最新医療設備をもち優秀な医師たちが所属する総合病院のことだ。登場するキャラクターについてはER同様それぞれの医師が悩みや問題を抱えている。ときには患者に焦点をあてるよりも医師自身に焦点を置くような展開がなされる。いずれにしてもこちらもキャラクター設定に余念がない。ER同様中心になる登場人物は男5人、女1人の6人。
 心臓外科医のジェフリー・ガイガーに扮するのは、M・パティンキンで「ディツク・トレイシー」に出演。脳神経外科医のアーロン・シャットに扮するのはA・アーキンで名優A・アーキンの息子。外科部長のフィリップ・ウォッターズには「プリティー・ウーマン」「ビバリーヒルズ・コップ3」のH・エリゾンド。老外科医のサーモンドにはE・G・マーシャル。婦長カミールには「評決」のR・ハート。弁護士のアラン・バーチには「ソフィーの選択」「ゴーストバスターズ2」「ロズウェル」のP・マクコニル。
 各回のストーリーは比較的重いテーマを扱っている。無脳症児からの臓器移植、脳死と尊厳死、パーキンソン病治療のため、彼の妻のお腹にいる3カ月の胎児を中絶し、その細胞を彼に移植などと、とてもシビアだ。
 しかしテーマが重ければ重いほど医療のあり方や医療倫理、人間の尊厳、そして生命と死などについて僕らに深く考えさせる機会を与えてくれることも確かだ。「ER」と違うのはこの辺のところだろう。「ER」はどちらかというと第三者的に気軽に見れる娯楽番組に属するが、「シカゴ・ホープ」は第三者的に熟考しながら見てしまうドキュメンタリー番組のような気がする。つまりじっくりと構えて見ればみるほど濃厚でなおかつ重厚な内容が視聴者にさまざまなことを問いかけてくるのである。


 医療は仁術なり、とはよくいったものだ。こういったドラマを見ているとつくづくそう思う。医療技術は確かにめざましい進歩を遂げた。一方医師の仁術はどうであろうか。もちろんドラマのような技術と仁術の両方を兼ね備えている医師は大勢いると期待したい。しかし残念なことだが、患者としての僕自身の経験や医療に関する書物などを踏まえると、仁術をどこかに置き忘れてきてしまった医師もまた多いかもしれない。それはともかく、この2作品をまだご覧になっていない方は是非一度ご覧ください。きっと続きを見たくなるはずです。それくらい質が高いのです。