2003年2月15日

 

 一年半ぶりに「ER」をまとめて観た。面白い!相変わらずパワフルで人間模様も木目細かく描写されている。登場人物の新陳代謝があり、そこからまた新しいストーリーが生まれていくところなどは見事で、まるで視聴者を飽きさせない。
 改めて考えてみたが、この作品の魅力はやはり登場人物たちにあるのだろう。それぞれが非常に現実的な問題を抱えており、必死に生きている。そのような背景の中で重篤な患者から軽度な患者たちと接し、時には司祭のように、時には教師、親や兄弟のように患者たちから慕われる。そのような時の患者たちが抱く感情は、決して優秀な技術を持ち合わせている医者という職業人に対してではなく、あくまでも人間としての彼ら一個人に対してである。また逆に、彼らは患者たちから様々なことも学ぶ。
 ERの舞台は救急医療センターであるため、あのような早いテンポの構成が救急医療現場のイメージとよく合致する。ただ手術の様子などは大掛かりなような気がしないでもないが。また、よりこの作品をリアルに見せるのが、医療事故の発生過程やその隠蔽過程を取り上げている点だ。おそらく事実に基づいての脚本作成なのだろう。
 一般論として、医療行為において事故を防ぐことは不可能に近いだろう。発生した場合は、患者側からすれば事故が発生したことに対する包み隠しのない報告と誠実で真摯な態度を求めることは必然となる。一方、医療行為者の側からすれば病院経営はビジネスであるため、可能な限り非を認めたくはない。医療訴訟に持ち込まれることは最も避けたいであろうし、また訴訟が起こったとしても負けるわけにはいかない、と考えるのが経営陣の常だろう。そのような構図があるためカルテ改ざんや口裏合わせなどの隠蔽工作が起きていく。
 治療行為は患者のプライベート保護のため密室で行われる。手術も然りだ。誤った執刀による事故は今日もどこかで少なからず起きているだろう。執刀されている患者は麻酔のため意識がないので、執刀中のことをわかるはずはない。そんな状況を改善しようというある一人の医師の意見がインターネットに掲載されていた。方法は簡単で、手術の際に執刀の様子をビデオテープを撮るだけだ。すでに実践しているとのことだった。術後、そのテープは患者に渡される。この方法ならば費用もさほどかからないし、万が一事故が起きたとしても、執刀の手順が記録されているため、事故の原因が明確となる。医療行為をする側からすれば、この手法を採用することにためらいがあるかもしれないが、患者本位の医療を本当に目指すのであれば、この方法は評価されるべきであろう。このように包み隠さず執刀手順を示すことは、結果として医療行為全体の質を向上させることに繋がっていく。
 病院経営に携わる善良な人々は多いと思うが、中にはよからぬやからもいるであろう。従って不道徳な医療行為者に対する現実的な即効性のある対処方法は、隠蔽行為が発覚した場合の罰則規定を相当厳しくすることだ。残念なことではあるが、それが現在も今後も隠蔽工作を起こさせない最大の抑止力となるだろう。

医療の話を書いていたら、1960年代から1970年代にかけてのアメリカが舞台の映画

 

パッチ・アダムス」<PATCH ADAMS>

1998/アメリカ
監督:トム・シャドヤック
主演:ロビン・ウィリアムズ/ダニエル・ロンドン

 

のことを書きたくなった。

 この役はロビン・ウイリアムズだったが、まさに適役だった。ストーリーは、自殺未遂で精神病院に入院したパッチ・アダムスが、そこでの自らの経験に基づき医者になることを決心し医科大学に入学するのだが、そこにはパッチの思い描く医療行為-医師の使命は、死に至る時期を伸ばすことではなく、如何に生の質を高めるかだーはなかった。そこで自らの信念に従った「愛と笑いとユーモア」を採りいれた彼独特の医療行為を実践していくのだが、そのやり方は大学側には理解されず窮地に立つ。それでも彼は・・・・・・、というものだった。

 

 この主人公は実在の人物だ。「癒しは愛するという行動様式を持った人間によるやりとりであり、ビジネス上の業務ではない」との考え方の持ち主であるハンター・アダムスは、16歳の時に父親や親愛していた伯父の死のショックから、自分自身の存在理由や人生に対する深い失望感に打ちひしがれ自殺願望に苛まれ、精神病院に自主入院する。しかしそこで出会った同室の友人とのコミュニケーションから、"笑い"が人の心や体の病を癒すことに気付き、医師になることを決意する。
 

 1977年に医学学士号を取得し、1年間の小児科研修を経て、共同体形式による無料診療の病院「お元気で病院(Gesundheit Institute)」を設立し、愛とユーモアそして医師と患者との友情を診療に取り入れた「夢の病院」で、のべ十数万人にも及ぶ患者のケアにあたる。その信条は、「友情こそ最高の治療薬である」だった。「お元気で病院」における多くの医療スタッフたちと患者たちとの共同生活の中で、 それまではタブー視されてきた「医師と患者とのコミュニケーション、スキンシップ、感情移入」によって育んだ真の友情を、ホリスティック医療(代替医療)の視点から臨床医療に生かし続けている。また、数々の劇を書きプロデュースし時には出演もするプロの道化師でもある。

 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社、アメリカンファミリー生命保険会社の協賛により、彼は20007年7月初来日し、昭和女子大学人見記念講堂で「Humor And Health」という講演をしている。そのときの講演内容には驚くことがいくつかある。



彼らは30年間まったく無報酬。初めて寄付というものをもらったのは、活動を始めてから14年目であったこと。

アメリカでは保険のシステムがあるために、多くの人々が医療を受けられないのが現実だったので、健康保険というものを一切受け付けなかった。また、誤診や医療ミスで訴えられた時のために医者がかける保険も一切かけなかった。

彼らは、西洋医学だけでなく、ありとあらゆる医療を併せて行っているため時には法律に違反することにもなる。 まあ、半端ではない。
 
 彼らの方法論的医療行為に関しては賛否両論あるのだろうが、その精神に異を唱える人はいないだろう。医療行為に携わるすべての人々が、彼のような医療思想の持ち主であったらどんなに素晴らしいことであろうか。技術はいくらでも学ぶことはできるが、本質的な気高い精神の後付けはなかなか難しい。今後、医療行為に携わる人々には、是非この作品を観てもらえればと思ってしまう作品だった。