2002年11月25日

 

 第74回アカデミー作品賞、監督賞、助演女優賞、脚色賞を受賞した

 

ビューティフル・マインド」<A BEAUTIFUL MIND>
2001/アメリカ
監督:ロン・ハワード
主演:ラッセル・クロウ/エド・ハリス

 

を観た。

 ストーリーは、プリンストン大学に実在する天才数学者でありノーベル賞学者であるジョン・フォーブス・ナッシュ・ジュニアが、総合失調症にかかり苦闘の中にありながらも妻に支えられノーベル経済学賞を受賞するまでの47年間を描いたものだった。


 ナッシュは実在の人物であるわけだが、シルヴィア・ナサールの原作では、実際のところが記述されているようだ。妻のアリシアとは離婚をしており40年後に復縁していたり、ある女性を妊娠させたり、ユダヤ人差別をしたり、良い父親ではなかったなど。原作者いわく、そのような点を認識しているにもかかわらず、作品タイトルを「ビューティフル・マインド」としたのは、あくまでも学問に対する彼の真摯な探求心とそのあくなき姿勢に対してへの賛辞のようだ。
 プリンストン大学といえば数学者の楽園で、アインシュタイン、ノーバート・ウィーナー、ジョン・フォン・ノイマンなどの傑出した人物がいた。ナッシュは病に苦しんだが、ついには現在の経済学、生物学、政治学、数学の各分野に多大な影響を及ぼすゲーム理論の基礎を打ち立て、「ナッシュ均衡」「ナッシュの交渉解」「ナッシュ・プログラム」「ド・ギオルギ=ナッシュの定理」「ナッシュの埋め込み論」などを提唱し、上記の傑出した人物たちに劣らない功績を残すこととなる。


 この作品の中で僕が気に入った場面がふたつある。


 ひとつは、ナッシュがゴミを外に出しに行き誰かと話をして戻ってくる場面だ。通常ならば、この時間帯に業者は現れない。アリシアは彼の症状が悪化したかと心配する。ところが、彼は清掃業者と話をしていたと主張する。アリシアが、その言葉を信じられずにいると、窓の外にゴミ箱をかついだ業者が通り過ぎるのを見る。一方彼は、ほらね、という表情でアリシアをはにかみながら見る。そしてアリシアは、気まずそうに彼を見た後声を立てて笑う。そのときのアリシアの表情には、彼を信じなかった自分に対しての怒りと後悔、そして彼の話が本当であったことに対する安堵と喜びの気持ちがうまく表れていた。 
 ふたつめは、彼がノーベル賞の資格審査に訪れた委員と大学の教職員用ホールにあるテーブルに向かい話をしていたとき、複数の教授たちがナッシュのテーブルに祝辞と共に万年筆を置いていくシーンだ。かつては、その光景に憧れまた諦めた彼にとって、そのかつての光景の中に自分が入れたことを確信した驚きと喜び、そして謙虚でありながらも自信にあふれた静かな表情がなんとも魅力的だった。
 
 ここで統合失調症(WHOの国際疾病分類では「スキゾフレニア」)について少し触れておく。かつては、精神分裂病と呼ばれ「精神が分裂する病」という誤ったイメージを一般に植え付けてきた旧病名に、患者や家族たちは苦しめられてきたのだが、2002年8月26日の日本精神神経学会総会で、正式に統合失調症と訳語変更が決められた。
 統合失調症は脳の働きの何らかの障害で起きる。急性期の陽性症状は幻聴や妄想、消耗期の陰性症状はだるさや意欲低下が特徴で、現れ方は個人差が大きい。情報に対する認知や行動を、必要な一つの方向に統合する機能が不調をきたす。遺伝や環境だけが原因ではなく、さまざまな要因が絡み合って発症するとみられている。ここ数年の新薬の登場で治療が大きく進歩。適切な服薬とリハビリテーションで十分回復する。日本の患者数は約70万人。およそ100人に1人の割合で発症し、まれな病気ではない。
 具体的には、この病気はその人の人格自体に問題が表れる。例えば、誰かがいつも自分を見張っている、自分を誰かが操作している、どこからか声が聞えて振り払ってもなかなか止めることができない、など本当に起こっているように感じてしまうため、本人にとってはとても辛く恐怖を感じる。その上、幻聴幻覚がその人にとってはリアルな体験のように感じ、なかなか自分で病気だと気がつかない、というように、この病識が無いことも特徴の一つである。本人の辛さは計り知れず、色々な音、声、思考が自分の意思に反して入り込んできてしまうため、混乱した恐怖感に苛まされる。10歳台の後半から30歳台に発病する場合が多い。
 さらに具体的に見てみると、ゆるやかな症状(例)としては、だんだん人と交流しなくなって一人ぼっちを好むようになり部屋に引きこもりがちになる。次第に勉強や仕事に身が入らなくなり成果も下がりミスが目立つようになる。どことなく集中力ややる気がなくなり一人になる時間が増える。性格的にも、おだやかな性格の人が急に怒りっぽくなったり乱暴になったりするときもある。また、話の内容に現実性がなかったり話が唐突になったりする、等が見受けられる。分かりにくい症状(例)としては、一般にうつ症状からはじまる場合も多く、離人症(現実味が感じられない感覚)などの始まりもある。不眠や疲れやすさや食欲低下がある場合でも、深刻さが認知されず、感情の変化と表情が矛盾することがある、などである。
急性・再発については、ストレスが重なるごとに、あるいはライフイベント(受験・結婚・出産など)をきっかけに再発したり何度も繰り返されることがある。また、そのような場合は、家族や同僚や友達といった身近な人たちや、あるいは本人も少し悪くなりそうだ、と直感したり気がついたりすることもある。

 

さて、主人公のナッシュは天才数学者である。そこで1問、数学で頭の体操をしてみるのはどうだろう。ただし、理系の人には簡単すぎるので体操にはなりません。

 

【問題】

 

前提:X=Y とする。

① 両辺に X をかける。
② X=XY    となる。
③ 両辺から Y を引くと
④ X-Y=XY-Y となる。
⑤ ゆえに、(X+Y)(X-Y)=Y(X-Y) となる。 
⑥ 両辺を (X-Y) で割る。
⑦ X+Y=Y  となる。
⑧ ここで、前提により X=Y なので、
⑨ X+X=X
⑩ 2X=X
⑪ これを X  で割る。
⑫ 従って、2=1  となる。

どこがおかしのでしょうか?

 

 

【解答】

 

両辺を(X-Y)で割ったところが誤りです。
それは、X-Y が「0」だからです。
数学では,「0」で割ってはいけないという大前提があります。
このことを無視した結果、「2=1」 という矛盾が生じた訳です。

 

いかがでした。簡単すぎましたか?