2014.11.16

「君と歩く世界」<DE ROUILLE ET D'OS

2012/フランス・ベルギー

監督:ジャック・オーディアール 

主演:ジャック・オーディアール  マリオン・コティヤール

 

<概要:amazon

南仏アンティーブの観光名所マリンランドのシャチ調教師ステファニーを突然襲った事故は、彼女の人生を一変させた。シャチの華麗なショーを指揮している最中に事故に遭い、両脚を失う大怪我を負ってしまったのだ。失意のどん底に沈んだ彼女の心を開かせたのは、5歳の少年のシングルファーザー、アリだった。彼は他の人々のように同情心でステファニーに接するのではなく、両脚がないことを知りながら彼女を海の中へ導いていく。不器用なアリの真っ直ぐな優しさに触れ、ステファニーはいつしか生きる喜びを取り戻し、輝かしい未来へとふたたび歩き出していくのだった…。

 

概要を読む限り、人生の再生物語のような印象を受けるのだが、作品を観た人はずいぶんと違った印象を受けたのではないだろうか。

僕の印象を一言でいえば、人生そんなに甘くない、という感じだろうか。

 

シングルファーザーのアリは、自己中心的なただのダメ男だ。子供を殴り置き去りにするような男は父親として失格だ。ナイトクラブにステファニーを誘うが、そこでナンパした女性と出ていってしまうような思いやりのかけらもない男でもある。また、世話になっている姉を平気で裏切る男でもある。

ステファニーは、両脚を失い失意のどん底にいる。そんな彼女の前に現れたアリに心を通わせていく。結論から言えば、アリとの出会いは彼女にとって決していい出会いではなかった。

彼女がアリに魅かれた理由はいくつかある。両脚がないにも関わらず一切特別扱いしない。飾るところがない。人の目を気にしない。女性としての自信を失った彼女にセックスを通して自信を取り戻させてくれた。こんなところだろうか。

しかしアリのこれらの行為は、ただ単に彼が人に対して無頓着、言い方を変えれば、自分のことしか考えない自己中であることや、セックスが好きというだけで、そこに彼女を思いやろうという気持ちは一切見受けられない。

 彼女が魅かれたような条件を持ち、かつ、優しさと思いやりを兼ね備えた男性はいくらでもいるだろう。彼女にとって、アリはいなくてはならならない存在ではないし、また、なりえないだろう。作品で描かれている彼女の性格からすれば、遅かれ早かれアリなしでも心の傷から立ち治っていたに違いない。

彼女自身が、そのことを一番わかっていたのではないだろうか。とにかく今は、この瞬間は、少しだけ現実から逃避したかったのだろう。アリへの想いが本当であるはずがないことを認識しながらも、そうせざるを得ない状況とタイミングだったに違いない。

 

 僕が、人生そんなに甘くない、という印象を持ったのは、彼女の視点で作品を観ていたからに他ならない。