2015.02.07
「カルテット!人生のオペラハウス」
<QUARTET>
2012年イギリス
監督:ダスティン・ホフマン
主演:マギー・スミス/トム・コートネイ
ビリー・コノリー
ポーリーン・コリンズ
は、著名な音楽家だった高齢者たちが紡ぎだす素敵な物語だ。
<公式サイト>
「引退した音楽家たちが暮らすビーチャム・ハウスでは、近く開かれるコンサートの準備に追われていた。そこで、穏やかに余生を送るレジー、シシー、ウィルフ。
ところが、昔、野心とエゴで皆を傷つけ去っていったカルテット(四重奏)仲間で、大スターのジーンが新たな入居者としてやってきた。しかも、レジーとジーンは、かつて9時間だけ夫婦だった。コンサートが成功しなければ、ホーム閉鎖という危機を迎え、誰もが伝説のカルテット復活に期待を寄せるが、過去の栄光に縛られたジーンは歌を封印。果たして伝説のカルテット再結成なるのか」
かつてはその歌声で名声を築いたが、今では、思うような高音が出なくなり、年齢を重ねた自分を肯定できないジーンと、ジーンの9時間だけの夫であり、仲間のウィルフが症状の軽い脳卒中を発症したことで、このハウスで彼を見守ることを選んだレジーが会話をするシーンがある。
「今日の出来は、昨日の出来より良くならなければならない」
というジーンに、レジーは「僕は歌うことより人生を選んだ」といった後、一呼吸置き、
「芸術作品とは舞台の孤独であり、些末な批評など手の届かないものである」
という言葉を贈る。短い言葉ではあったか、プライドの高いジーンの気持ちは瞬間、和らいだ。
章が進んでいくと、ジーンは、レジーとの離婚後、再婚した元夫に、このハウスの病室で再開する。二人は、わだかまりもなく昔話に花を咲かせるが、ジーンは、コンサートで舞台に立つことを躊躇していることを彼に告げる。ここで、彼がジーンに贈った言葉は、
「歌いなさい。歌えなければ舞台で手品でもやればいい。歌わないと、後は火葬場で主役になるだけだ」
と彼女を鼓舞するものだった。
別のシーンでは、認知症の症状が時折出てしまうシシーから、ジーンを含めた仲間3人に贈られる言葉がある。
「このホームは天の恵みよ。あなたたちがいる」
多くの優しさを贈られたジーンは、昔の仲間と共に再び舞台に立つことを決心する。
コンサートの日、ビーチャム・ハウスの院長が舞台であいさつする。
「彼らの人生への情熱は私たちに伝わり、希望を与えてくれました」
人は誰しもいつか高齢者になる。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、65歳以上の高齢者の割合は、20年後の平成47年には33.4%となり、3人に1人が高齢者になるとしている。
もちろん僕もいずれは高齢者の仲間入りをする。
この作品を観た以上、高齢者になっても情熱は持ち続けたい。もし、プライドという重い鎧を着ていたとしたら、それを脱ぐことに躊躇せず潔く脱ぎたい。
この作品のモチーフは、1896年にヴェルディがミラノに創った音楽家のための老人ホーム「音楽家憩いの家」にあるようだ。2001年、NHKスペシャルで「人生を奏でる家」として放映されている。
内容は、ミラノ・老音楽家たちの日々~世界でただ一つ、年老いた音楽家が共同で生活し、人生を全うするための「音楽家憩いの家」。100年前、作曲家ヴェルディが作ったこの家で、現在51人が暮らしている。彼らが最後まで音楽家として尊厳を保ち、人生に立ち向かう姿を見つめる~とある。
ちなみに、この作品は、ダスティン・ホフマンの初監督作品になる。75歳の監督が奏でたこの作品は、その年齢だからこそ、描けたものといえるかもしれない。きっと、年齢を重ねた彼自身がそこにいるのだろう。また、この作品には、イギリスでは有名な、多くの引退したアーティストたちがこの作品に出演しているので、彼らの演奏や歌を鑑賞するだけでも、いい時間を過ごせるはずだ。