2015.02.08
「コンプライアンス 服従の心理」<COMPLIANCE>
2012年アメリカ
監督:クレイグ・ゾベル
主演:アン・ダウド/ドリーマ・ウォーカー
<公式サイト>
概要
アメリカのあるファストフード店。朝からトラブル続きの金曜日、店は賑わいをみせていた。そこへ警察官を名乗る男から一本の電話が入る。その男は、女性店員に窃盗の疑いがかかっていると言い、店長のサンドラに、その女性店員の身体検査を命じた。警察官の言うことなら、と、サンドラはその指示に忠実に従うことに。しかしこれは、その後数時間にわたって行われる“信じがたい行為”のはじまりにすぎなかった。
Intro
米大手ファストフード店で実際に起きた事件を映像化
2004年、ケンタッキー州のあるファストフード店で事件は起きた。警察官を名乗る男からの1本の電話により、従業員だった少女が窃盗の濡れ衣を着せられただけでなく、身体検査と称して裸にされ、性的行為を強要されたのだ。監督クレイグ・ゾベルは不合理極まりないこの事件を、“権威と服従の実験”で有名な[ミルグラム実験]と結び付けて映像化。
善悪の判断を超えて人はなぜ権威に服従してしまうのか?という人間の本質に鋭く迫る。
この作品を観終わったとき、僕の頭には、ストックホルム症候群という言葉が浮かんだ。
ストックホルム症候群と名付けられた事件は、1973年8月にストックホルムで起こった。以下、ウィキペディアから引用する。
<ストックホルムでの銀行強盗人質立てこもり事件(ノルマルム広場強盗事件)において、人質解放後の捜査で、犯人が寝ている間に人質が警察に銃を向けるなど、人質が犯人に協力して警察に敵対する行動を取っていたことが判明した。また、解放後も人質が犯人をかばい警察に非協力的な証言を行ったほか、1人の人質が犯人に愛の告白をし結婚する事態になったことなどから名付けられた>
ノルマルム広場強盗事件の被害者と、この作品の被害者の取った行動は、まかり間違っても同じでではない。前者には共感・共鳴などの意識が感じられる一方で、この作品の被害者は、反抗的で早くその場からの解放を望んでいる。
では、なぜ僕は、この作品からストックホルム症候群という言葉を思い浮かべたのだろうか。それは、結果として双方の被害者が、自己防衛のために、表面的であれ、本当であれ、相手に従う、という同じ入口を通過していたからだ。そして、もう一つの共通項は、権力・権威だ。前者の場合でいえば、銃を持った犯人はただの犯罪者であるが、人質にとってみれば、自分の命を左右することのできる、狂気を備えた権力・権威者だ。後者においては、顔の見えない犯人は、警官と名乗り、しかも、彼女の家族までを巻き込んだでたらめな会話をし被害者を威圧している。僕ら観客は、警官を名乗っている犯人が権力・権威者でないことを知っている。しかし、一市民である被害者にしてみれば、顔の見えない警官を名乗る男は、非常に身近で力を持った権力・権威者に感じられるだろう。
今回は、銀行強盗、そして、窃盗という濡れ衣に遭遇した2つの被害者のケースを見ている。この内容である限り、突発的、しかも、命にかかわる、あるいは、生活にかかわるような権力・権威者からの威圧に一般人が遭遇した場合、人によっては意識的に、人によっては無意識的に、いずれにしても、やはり多くの人々は、似非権力・権威者とわかっていても、共鳴・共感・服従などの手段で自己防衛を図るのは致し方ないことだろう。
最後に、オーストリア少女監禁事件の被害者が、2010年のガーディアンのインタビューに語った内容を記しておく。
「自分を誘拐した犯人の主張に、自分を適合させるのは、むしろ当然である。共感やコミュニケーションを行って、犯罪行為に正当性を見い出そうとするのは、病気ではなく、生き残るための当然の戦略である」