2017.11.12

君がくれたグッドライフ

 <HIN UND WEG 

 

2014/ドイツ

監督:スティアン・チューベルト 

主演:リアン・ダーヴィト・フィッツ 

 ユリア・コーシッツ

 

 <概略 公式サイト> 

年に1度、自転車で旅に出る6人の仲間たち。持ち回りで行き先を決めるのだが、今年はハンネスとキキの夫婦の番だ。ベルギーと聞いた友人たちは、チョコレート以外に何があるのかとボヤく。だが、ハンネスの選択には、ある深い理由があった──。 

  ALS(筋萎縮性側索硬化症)と宣告された彼は、これを人生最期の旅にすると決めていたのだ。ベルギーでは、法律で尊厳死が認められている。真実を知った仲間たちは大きなショックを受けるが、彼の願いを叶えることを決意する。いつものように、旅行中に実行しなければならないムチャな課題を出し合い、クリアするたび笑いがはじける旅は、このままずっと続くように思えた── 

 

 テーマが尊厳死と重厚にも関わらず、観終わった後の気持ちに澱みはなかったが、先週に引き続き考えさせられる作品だった。 

 

 ハンネスの父親がALSを患い亡くなっていたため、彼自身家族の苦労は十分承知していること、そして、何よりも彼には彼が思うところの人間の尊厳について十分考える時間があり、その上で行き着いた答が安楽死だったことは理解可能な範囲にある。また、最期の時を仲のいい友人たちと過ごしたいという気持ちもよく理解できた。 

ただ、鑑賞中、僕には友人たちと行くこの選択はできないな、と思った。それは、簡単な思い出作りとはレベルが違いすぎ、友人たちには荷が重過ぎると感じたからだ。途中で危篤状態に陥ったり事故や怪我などにあわない保証はない。万が一そのようなことが起きたら友人たちの善意の気持ちを無にしてしまう結果にも成り得る。これが理由だった。 

 

 母親に目を移すと、彼女の抑制された立ち振る舞いは見ていて辛いところが多々あった。この病に罹患した夫の最初から最期までを看ているからこその苦渋の同意であったであろうことは容易に想像がつく。実に毅然とし凜とした母親だった。

 更に妻に目を移せば彼女の内面描写は実に巧かった。妻であれば多くがこのような葛藤を抱き揺れ動くのだろうな、と思わせられるほど完璧な演技だった。 

 

 この作品を観た後、気持に澱みはなかったと冒頭に書いたのは、あのエンディングがあったからに他ならない。何の意味もないはずだった課題が、キキにはその課題が非常に重要な意味を持った瞬間になったはずだ。この課題という伏線が物語のラストをよりいっそう引き立て、前に向かって歩いていくという監督の強いメッセージを感じ、僕は、“キキ、がんばれ!”と心の中で叫んでいた。