2023.11.07
「モガディシュ 脱出までの14日間」
<ESCAPE FROM MOGADISHU>
2021・韓国
監督:リュ・スンワン
主演:キム・ユンソク
<概要・時代背景 オフィシャルサイト>
1990年、ソウル五輪で大成功を収め勢いづく韓国政府は国連への加盟を目指し、多数の投票権を持つアフリカ諸国へのロビー活動に励んでいた。ソマリアの首都モガディシュで韓国大使を務めるハン(キム・ユンソク)は、現地政府の上層部に何とか取り入ろうとしている。
一方、韓国より20年も早くアフリカ諸国との外交を始めていた北朝鮮のリム大使(ホ・ジュノ)も国連加盟のために奔走し、両国間の妨害工作や情報操作はエスカレートしていく。
そんな中、ソマリアの現政権に不満を持つ反乱軍による内戦が激化。暴徒に大使館を追われた北朝鮮のリム大使は、絶対に相容れない韓国大使館に助けを求める決意をする。果たして、ハン大使は彼らを受け入れるのか、全員で生きて脱出することができるのか、そしてその方法は──?
映画の時代背景である1991年は、韓国がまだ国連に加入していなかった時期だった。1986年のアジア競技大会と、1988年のソウルオリンピックを経てグローバル化を掲げていた韓国は、国際社会に認められようと国連への加入を試みる。加入には国連加盟国の投票が重要であり、ソマリアがどの国に票を入れるのかが鍵となる状況だった。韓国と北朝鮮は、それぞれ支持を得ようと外交戦を繰り広げる。
当時、北朝鮮はヨーロッパとアフリカの国々とは韓国よりも20年も前から対外外交を始めていたため、外交的には優勢であった。1990年後半には情報戦まで繰り広げ、韓国の安全企画部と北朝鮮の保衛部まで大使館に加勢して加熱した外交合戦を行っていた時代だ。そんな時、ソマリアでは、後に取り返しのつかない内戦に発展するデモが始まっていた。
実話に基づいているからこその興味深い内容だった。
それは南と北が手を結び脱出計画を決行し成功させたこと。時代背景に記されているように、南北は外交戦を展開しているライバルだが、内戦により大使館が襲撃され職員や家族に生命の危険が及んだため協力体制構築を決断した。生命に危険が迫らなければ、双方による互恵関係は実現しなかったと思われる。一方で、手を結んだ以上、双方とも脱出に向け最善を図ることに注力する。至極当然のこととして全員が協力し一丸となり作戦を決行していく。
僕にとって実に見ごたえある作品となった一つの理由が、双方による互恵関係に至るまでの経緯描写のリアルさだった。それぞれが思惑を持ちそれを秘匿しながらも協力体制を構築していく駆け引きの様子を観て、実際の協議は描写されているように行われたのだろうと感じた。
反政府軍から逃げるカーチェイスシーンも見ごたえがあった。銃弾を避けるため車に施した防御策も合点がいった。作戦が成功し祖国に帰国する際、生死を共にし同じ飛行機に乗った南北両家族の葛藤が、よく描かれていたのもリアルだった。心情としては手を取り合い互いの無事を喜びタラップを降りたいところだろうが、既存の南北体制下ではそれは許されない。
空港に到着しそれぞれが他人のように無関心を装いタラップを降りた。国別のバスに乗り出発しても、南北代表もその家族もお互いを見ることはなかった。心情を推し量ると実に悲しくやるせない描写だった。