2013年3月25日

 

 この1ヶ月、なぜだか急にパニックものが見たくなり相当な本数を見たのだが、ほとんどが、残念!だった。しかし他のジャンル作品も観ていたので、残念!ばかりではなかった。
 そのひとつの作品が、

 

勇者たちの戦場」<HOME OF THE BRAVE>

2006/アメリカ 

監督:アーウィン・ウィンクラー 

主演:サミュエル・L・ジャクソン/ジェシカ・ビール/カーティス・ジャクソン

 

だった。

 ストーリーは、イラクでの泥沼の戦場を体験し心に深い傷を負ったアメリカ人兵士たちが、帰還後も日常生活への順応に苦慮する姿を描いたものだ。この手の作品は数多く作られている。いわゆるベトナム後遺症ものだ。
  
 「勇者たちの戦場」では時代が移り、かつ舞台がイラクになった。しかし、舞台や時代が変わろうとも戦場を体験した者だけが感じる深い悲しみや疎外感、孤独感、そして戦場に行っていない人たちへの違和感などの描写は表現が変わっただけで本質は変わっていない。
  戦争を体験した本人、そして彼らを思いやる人たちのとまどいと葛藤がそこにはあった。非日常である戦争体験が与えた甚大なる精神的負荷と重過ぎるほどの心への負の侵略が4人の登場人物を介し描かれていた。
  そのひとつに、仕事に就くことができない現実が、親友を亡くしたトミーの姿を通し描写されている。

 

 2011年12月の報道ステーションでは、イラク完全撤退による、アメリカ帰還兵を待ち受ける厳しい現実を特集していた。
  当時、アメリカを襲った経済危機による全米の失業率は8.6%。しかし、イラクやアフガニスタン派遣を経験した退役軍人の失業率は、それを上回る11.1%だった。インタビューに答えていたイラクへ2度行った彼は、除隊し軍人から民間人に戻ったのだが、除隊後、見つかった仕事はアルバイトや給料の安い短期の契約ものばかり。彼は、諦めそして憤慨した表情で、「国のために働いてきたのに、景気が悪く、仕事が得られない」と答えていた。
  当時の米紙の記事によると、イラク、アフガン戦争の帰還兵約135万人の約6割にあたる約85万人が失業中と書かれている。

 

 サミュエル・L・ジャクソンが演じる医者のウィルは、戦場で失われていく多くの命に対し、何も感じなくなっていく。日常繰り広げられる当たり前の光景のひとつに人の死があったからだ。帰国後、彼が頼ったのはアルコールだった。
  高校の教員だったヴァネッサは、右手を失い義手をして復職するのだが、そこにいたのは明るく積極的だった頃の彼女ではなく、自分から人を遠ざけてしまうような別人だった。
  また、かつては陽気でタフだったジャマールも変わってしまった。戦場である人影に反応し武装していない女性を射殺してしまったことが彼を別人へと変えてしまった。帰還後、彼は自ら命を絶ってしまう。
  それぞれが戦場を体験してしまったことで心に大きなしこりを作ってしまう。しかも、そのしこりのできた場所は、光の差し込まない心の奥底だった。

 

 2004年12月11日のNHK・BSドキュメンタリーで放送された「イラク帰還兵 心の闇とたたかう」では、2003年末に帰還兵の6人に1人の16%がPTSDなどを発症しているとレポートされていた。これはアメリカの医学雑誌『ニューイングランド医学ジャーナル』が、米軍の協力で行ったイラクに駐留するアメリカ兵の精神状態に関する調査の結果である。調査報告書「イラク及びアフガニスタンにおける現役米軍兵士の精神衛生問題、ケアの障害」は2004年7月に発表されているのだが、その報告の中で、2003年10月から12月に帰還した兵士1695人の内、278人、およそ16%の兵士がPTSDなど精神的に深刻な問題を抱えていることが明らかにされている。

 

 首都ワシントン郊外にあるアーリントン国立墓地には、イラク戦争で死亡したアメリカ兵の多くがに埋葬されている。イラク戦争では4,400人以上のアメリカ兵が死亡し、後遺症の残る大けがを負った兵士は32,000人を越えるという。