2004年4月5日
先日、囚人たちを題材にした実話、
「ウィーズ」<WEEDS>
1987/アメリカ
監督:ジョン・ハンコック
主演:ニック・ノルティ
を観た。
相変わらずのしゃがれ声で、疲れ果てうだつのあがらないダメ男を演じたら、本当にそれっぽい役者、ニック・ノルティががんばっていた。作品の概要は、終身刑で投獄された男が文学と演劇の世界に興味を持ち、やがては、出所後ブロードウエイで刑務所での生活を題材にした作品を囚人仲間たちと公演するというものだった。
ニック・ノルティの起用自体は適役だったと思うのだが、作品自体は今一つだった。個々の登場人物たちの心情や性格など一応は描かれてはいたものの、表層にすぎない印象を受けた。きっとそれは、囚人たちがブロードウエイで演じるという見出し的、ゴシップ的な側面を強調しすぎ、登場する個々の人物描写に深入りしなかったからだろう。主演のニック・ノルティにもあまり感情移入ができなかった。それも同様に、公演にむけてたんたんと話が進んで行き、彼のリアルな内面描写―葛藤や苦悩、心からの喜びや歓喜などーがおろそかにされていたからだと感じた。
全体として言うならば、僕がこの作品に共感できなった最大の原因は、個々人にライトアップする手法を採らずにテーマに焦点をあてすぎた、監督であり脚本も兼ねているジョン・ハンコックに帰趨するといえる。
刑務所を題材にし、かつヒットした作品は多い。比較的最近では
「チョコレート」<MONSTER'S BALL>
2001/アメリカ
監督:マーク・フォースター
主演:ビリー・ボブ・ソーントン/ハリー・ベリー
がある。
第74回アカデミー賞で、ハリー・ベリーは黒人女優として初の主演女優賞を授賞し話題になったので、ご覧になった方も多いだろう。愛する人を失う哀しみ、虚無感、失意の中での一筋の光と慰み。人間そのものを静かに描いたいい作品だった。
また、監督・脚本フランク・タラボンと原作スティーブン・キングの
「グリーンマイル」
「ショーシャンクの空に」
も多くの方が観ているに違いない。ものすごく大きな信念や希望そして思いやりがそこにはあった。ちなみに僕が◎をつけた
「マジェスティック」
もフランク・タラボンの監督作品だ。
さらにシリアスで人間の尊厳や生と死の根幹を静かに見据え、そして重厚にとらえていた作品には
「デッドマン・ウォーキング」<DEAD MAN WALKING>
1995/アメリカ
監督:ティム・ロビンス
主演:スーザン・サランドン<アカデミー主演女優賞>/ショーン・ペン
「ラストダンス」<LAST DANCE>
1996/アメリカ
監督:ルース・ベレスフォード
主演:シャロン・ストーン/ロブ・モロー/ランディ・クエイド
があった。
この2作品については、以前にコメントしているが、別の角度で見ると、人権とは何か、ということにも突き当たる。加害者にも被害者にも人権はある。しかし僕は思うのだが、前者と後者の人権には軽重があってしかるべきだと思っている。
アルカトラズ刑務所内で起こった実話を元にした、
「告発」<MURDER IN THE FIRST>
1994/アメリカ
監督:マーク・ロッコ
主演:クリスチャン・スレーター/ケヴィン・ベーコン
も人権について考えさせられる作品だった。作品では、非人道的な刑務所の歳月が被告に殺人を犯させたとし、刑務所を告発することとなり最後は勝訴する。しかし、割り切れない結末が待っている。この事件をきっかけに、刑務所内では様々な改革が行われ、やがて63年に完全閉鎖される。
この他にも、
「暴力脱獄」<COOL HAND LUKE>
1967/アメリカ
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
主演:ポール・ニューマン/ジョージ・ケネディ
「ミッドナイト・エクスプレス」<MIDNIGHT EXPRESS>
1978/アメリカ
監督:アラン・パーカー
主演:ブラッド・デイヴィス/ランディ・クエイド
「ブルベイカー」<BRUBAKER>
1980/アメリカ
監督:スチュアート・ローゼンバーグ
主演:ロバート・レッドフォード)
など硬派な秀逸作品は多い。また、そこまで硬派ではないが、
「アルカトラズからの脱出」<ESCAPE FROM ALCATRAZ>
1979/アメリカ
監督:ドン・シーゲル
主演:クリント・イーストウッド
「スター・クレイジー」<STIR CRAZY>
1980/アメリカ
監督:シドニー・ポワチエ
主演:ジーン・ワイルダー
「チェーンヒート」<CHAINED HEAT>
1983/アメリカ・西ドイツ
監督:ポール・ニコラス
主演:リンダ・ブレア
「ロックアップ」<LOCK UP>
1989/アメリカ
監督:ジョン・フリン
主演:シルベスター・スタローン/ドナルド・サザーランド
「愛に囚われて」<THE CAPTIVES>
1994/イギリス
監督:アンジェラ・ポープ
主演:ティム・ロス
「グリーン・フィンガーズ」<GREENFINGERS>
2000/イギリス・アメリカ
監督:ジョエル・ハーシュマン
主演:クライヴ・オーウェン
「ブロークダウン・パレス」<BROKEDOWN PALACE>
1979/アメリカ
監督:ジョナサン・カプラン
主演:クレア・デインズ
などもお勧めだ。
僕が"刑務所もの"に魅力を感じるの理由は3つある。
1. 登場人物が少ないため、じっくりとその人物がフォーカスされ奥深い
人間劇になっているから。
2. 「生と死」「人権」「尊厳」「司法」などのように、扱われるテーマは重くシリアスな
ため、いろいろと考えさせられ学ぶことが多いから。
3. 刑務所内という限られた空間で話が進むいわば密室劇で、
なおかつ僕にはわからない異次元な場所が舞台だから。
今回は、刑務所に焦点をあててみたが、次回は似たような題材にはなるが、捕虜収容所にスポットをあててみようと思う。ちなみに、
「ジャスティス」<HART'S WAR>
2002/アメリカ
監督:グレゴリー・ホブリット
主演:ブルース・ウィリス)
はいい作品だった。