2005年5月29日

 

デブラ・ウィンガーを探して

SEARCHING FOR DEBRA WINGER> 

2002/アメリカ 

監督:ロザンナ・アークエット

 

は、「働く女性としての女優と私生活の両立や人生そのもの」についての思いや考えを、34人のそれぞれの女優たちが、率直にロザンナ・アークエットや仲間たちと語りあう様をドキュメンタリーとして記録した作品だ。撮影には10ヶ月以上を費やしたそうだ。しかし、よくもこれだけの数の女優にインタビューしたものと感心する。映画業界では相当顔が広い人なんだということを初めて知った。出演している女優たちは、自分自身を演じているようには思えず、ほとんど地で語っていると感じた。こんな感じ方を観客にさせるということは、おそらくロザンナ・アークエットへの信頼や安心感があったからこそ、そして女優として、人間としての自分自身への誇りと自信があるからこそ成り立つのだろう。


 34人の出演女優の中で印象に残っている女優の一人は、ジェーン・フォンダ(1937年ニューヨーク生まれ。父は故ヘンリー・フォンダ。弟はピーター・フォンダ。1960年「のっぽ物語」の端役で映画デビュー。1971年「コールガール」、1978年「帰郷」で主演女優賞受賞。2005年、ジェニファー・ロペスとの共演作「Monster-in-Law」で「アイリスへの手紙」から15年ぶりにスクリーンにカムバック)。彼女の場合は演技をしていると思うが、とにかく印象に残った。「私の犯した過ち。子育ては人任せで、子供のことを忘れすらした」という、懺悔的に語るシーンは演技なしの本音だったと思う。しかし、この言葉が印象に残った訳ではない。僕がインパクトを受けたのは、そんな子供に対しての贖罪感を語る彼女の表情や雰囲気のあとに、話題を変えて、重要なシーンの撮影に臨む前の緊張感を、まるで別世界に入ってしまったかのような恍惚とした表情でまさに演技をして堂々と語る15分くらいのシーン(いかにその瞬間瞬間が女優冥利なのか、いかにその場が自分にとって大切なのか、まさにその瞬間があるからこそ、女優をしているというもの)に思わず引き込まれてしまったのだ。これが女優なのか思った次第だ。
 一方、印象に残っているもう一人の女優、フランシス・マクドーマンド<1957年イリノイ州生まれ。ブロードウェイの舞台「欲望という名の電車」でトニー賞にノミネート。「ミシシッピー・バーニング」でアカデミー賞候補。「ファーゴ」の妊婦の保安官役で主演女優賞受賞。出演作品は、「ブラッド・シンプル」「XYZマーダーズ」「赤ちゃん泥棒」「ミシシッピー・バーニング」「ミラーズ・クロッシング」「夢の降る街」「ショート・カッツ」「ファーゴ」「あの頃ペニー・レインと」「バーバー」「容疑者」>は、ジェーン・フォンダとは逆でまったく演技性を感じなかった。彼女の語った内容に相槌を打ったシーンがある。「整形手術?今を耐えれば一人勝ち。54歳のいい女優が必要なときに独り占めよ」。現在の映画業界への不満と諦めを言い表してはいるが、彼女のこの言葉に、今の自分に対する迷いはなく強い自分自身への信頼と自分らしさを今後も維持しようという決意が含まれていると感じた。魑魅魍魎が往来する映画業界にあって、そんな彼女の強さに感銘を受けた。彼女のその心意気は伊達ではないはずだ。本人の言葉通り54歳になったときには、きっとその役のオファーをあちらこちらから受けるのだろうし、そうあってほしいと思う。しかし、この考え方に達するまでの本人の葛藤は、実際並大抵ではなかっただろうと思う。だからこそ、今後もがんばってほしいし、生き残ってほしいと思う。
 

 今回が初監督のロザンナ・アークエットについて触れておく。1959年、ニューヨークに生まれる。彼女の家庭は、祖父、父、そして彼女の誕生後に生まれる姉弟も俳優という俳優一家だ。1977年に「悪魔の棲む村」のTVMに出演後、1979「アメリカン・グラフィティ2」で映画デビューを果たす。出演作品は、今回の作品を含めると47本になる。
 僕は彼女の女優としての出演作品の何本かを観てはいる。ところが、作品自体に印象は残っていても、彼女についての印象がない。そのような意味では、今回彼女の良さを改めて認識したことになるのだが、それは女優としてではない。あくまでも監督としての認識という意味でだ。ただし、今回のようなインタビュー形式だからこそ、彼女の良さが100%活かされたのだろうと思う。今回の作品では出演女優たちには決められた台詞はなく、ぶっつけ本番トークになる。脚本のないステージで人の心を開かせてしまう能力というか人柄は、監督として必要な一つの資質だと思う。そんな観点からいえば、今回のこの作風が彼女にマッチしたのだと思う。今回の女優インタビューの延長として、次回は男優たちへのインタビュー作品を監督してみてもいいのかもしれない。最後に、彼女の出演作品リストをあげておく。

 


         セックスダイアリー(2001)
         隣のヒットマン(2000)
         SEX:EL(2000)
         トゥルー・ファミリー/わが子を抱きしめて(1999)
         ポイズン(1999)
         微笑みをもう一度(1998)
         バッファロー'66(1998)
         TABOO タブー(1998)
         ブラック・ハート(1998)
         HELL'S KITCHEN(1998)
         ゴーン・フィッシン'(1997)
         ライアー(1997)
         魔性弁護人(1997)
         クラッシュ(1996)
         ブレイクアウト(1996)
         サーチ&デストロイ(1995)
         エスケイプ/FBI証人保護プログラム(1995)
         海辺の殺人者(1994)
         パルプ・フィクション(1994)
         カンヌ映画祭殺人事件(1994)
         愛の拘束(1993)
         ボディ・ターゲット(1993)
         殺人愛好症(マニア)の男(1992)
         サン・オブ・ザ・モーニング・スター/悲劇の将軍カスター(1991)
         ニューヨーク恋泥棒(1991)
         イントルーダー/怒りの翼(1990)
         ウェンディの見る夢は(1990)
         恋人たちのパリ(1990)
         ニューヨーク・ストーリー(1989)
         ブラック・レインボウ(1989)
         グラン・ブルー/グレート・ブルー完全版(1988)
         グレート・ブルー(1988)
         グラン・ブルー/オリジナル・バージョン(1988)
         アメリカン・パロディ・シアター<未>(1987)
         800万の死にざま(1986)
         アビエーター(1985)
         アフター・アワーズ(1985)
         シルバラード(1985)
         マドンナのスーザンを探して(1985)
         ベイビー・イッツ・ユー(1983)
         死刑執行人(1982)
         S.O.B.(1981)
         ロングウェイ・ホーム(1981)
         アメリカン・グラフィティ2(1979)
         FBI特捜指令/パティー・ハースト誘拐事件(1979)
         悪魔の棲む村(1977)