2014年6月21日

今月は、立て続けに2本の作品に◎を付けた。 その1本が、

 

星の旅人たち」<THE WAY>

2010/アメリカ・スペイン
監督:エミリオ・エステヴェス

主演:マーティン・シーン/エミリオ・エステヴェス


ジャンルは、ロードムービーだ。

作品概要
「スペインにある聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の旅の途中で急死した息子、ダニエルの遺体の確認に、アメリカに住む眼科医の父親、トムが現地へ赴く。
トムは疎遠だったダニエルの遺志を継ぎ遺灰と共に800キロの巡礼の旅に出る。
道中、トムは様々な背景を抱えた人々と出会い、時には反目し、時には尊敬し、同情や嫌悪などさまざまな感情を抱きながらも、互いに心を通わせいく。
そして、他人同士が友人に、そして家族のような関係になっていく。
それは、それぞれの人生に対する前向きな答えを見つけていく旅でもあった」

一人旅のはずが、気が付いてみると複数の人たちとの関わりがあり、結果的に一人旅ではなかったというのが、かつて僕が学生時代していた旅の典型的なパターンだった。
 
この作品も、目的地に向かう登場人物たちは、当初一人旅だった。
傷心し心を閉じている主人公のトム。ダイエットが目的だという陽気で気遣いにたけているオランダ人のヨスト、ヘビースモーカーでDVにより娘を手放さざるを得なかったカナダ人のサラ、そしてスランプで悩んでいるトラベルライターであるアイルランド人のジャック。
そして、この旅人達に混じり、カットバックでしか登場しないダニエルが加わる。
 
作品では、トムとダニエルの不仲や疎遠である詳しい理由は描かれていない。
僕は思う。
この不描写があったからこそ、この作品は僕にとりより身近なものになった、と。
なぜならば、親子関係の詳細描写がないということは、僕自身に親子の場面、濃淡、密度などを想像する自由が与えられ、委ねられたという理解をするからだ。
この作品は、巡礼での人々との出会いから始まる人間の、人生の再生物語と僕は解釈している。ダニエルの死で始まり、カットバックでも登場するダニエルがいる作品ではあるが、主人公はあくまでもトムと出会う人々だ。
トムとダニエルの親子関係の想像が僕に委ねられたとしても、その後に展開する物語の主題が歪められることはないだろう。

良好な親子関係を想像し物語を観るのもよし、険悪な親子関係を想像し観るのもよし、その中間で観るのもよし。
これだけの自由度がそれぞれの観客に委ねられれば、クローズアップされるトムの表情の裏に隠された真の理由も複数となる。

この作品は、このように個人の親子関係を挟みながら、さまざまな仲間たちと巡礼をすることができた素敵な物語だった。