2013年6月23日

 

「IMPOSSIBLE」について昨日コメントしたが、

 

灼熱の魂」<INCENDIES>
2010/カナダ・フランス 

監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ

主演:ルブナ・アザバル/メリッサ・デゾルモー=プーラン

 

もまた、別の意味で重く激しい作品だった。

 

<ストーリー 公式サイトより>

【カナダのアカデミー賞たるジニー賞で作品賞、監督賞、主演女優賞など8部門を受賞し、米国アカデミー賞の最優秀外国語映画賞にノミネートされた本作は、主人公の死から始まる驚くべき物語である。
 初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった…。】

 

 評価の高い小説や映画というものは、見事な伏線が用意周到にさまざまなところに張りめぐらされている。そして、勢いのあるままラストシーンへと突入し、読者や鑑賞者を驚かせ納得させる。
  この作品を重く激しいと表現したには理由がある。
  ひとつは、表層のテーマとして「民族や宗派間の抗争」による憎しみと復讐の負の連鎖が描かれているからだ。つまり、終わりがない報復と死の物語が綴られているということだ。
  二つ目は、人が意思を貫くためには、相当な強い意志が必要だという事実を、強い意志、なんていうものをはるかに超えた超最大級の激情を秘めた主人公の意思と姿勢を目の当たりにしながら、その激しいまでの人の強さと言うものを知ることになるからだ。

 知らないほうがいいこともある、という言い方がされるときがあるが、知ってしまったとしても、人はその事実に対処していく能力と強さを持っている。
  一方で、真実ゆえの辛さや厳しさが介在するため、ともすれば、その事実を消化しきれず暗闇へと落ちてしまうこともあるだろう。しかし、そこから人は這い上がり真実を消化し、最後は自分のものとして取り込み成長していく。
  というのが大概のことに関する僕の見解なのだが、実は、この見解があてはまらないのがこの作品と思っている。
  ネタバレになるため抽象的な表現しか使えないのだが、やはり、知らないほうがいいこともある、という特殊な内容が最後に近づくにつれ明らかにされていく。
  ここにくるまでのさまざまな伏線は見事の一言だ。
  そして、結末が披露されたとき、あまりの真実に愕然とし声を失い、体がこわばってしまう。そして同時に、主人公の強さと寛容さに敬服する。
  
  とは言え、主人公は母でもある。この点を踏まえ、人間としての彼女の視点、あるいは、母としての彼女の視点、あるいは、彼女の子供たちからの視点でというように、多重的な視点でこの作品を観ることをお勧めしたい。
  
  いろいろと考えさせられるとても重厚な物語だった。