2011年6月27日

 

 

今年に入り韓国映画を13本観ているが、今回はその中から3本の作品を取り上げる。
 
エンジェル・スノー」<一日>
2001 

監督:ハン・ジスン 

主演:イ・ソンジェ/コ・ソヨン
 
 この作品はイタリアで掲載された新聞記事が下地になっている。
 子供を望む夫婦にとり不妊は切実な問題だ。治療期間中、夫婦にはそれぞれの思いや葛藤があるであろうし、結果が芳しくないまま残念な結果に終わることも少なくないだろう。
 作品では、二人が直面したある事実、そして、その事実を乗り越えるまでが丁寧に描かれている。
 この作品が他の作品と異なっているのは、妊娠に成功したことがわかってから、本筋が展開されるところにあった。やっと授かった赤ちゃんには異常が認められ、生まれても1日しか生きられないという厳しい現実が夫婦に突きつけられる。二人の選択肢は、中絶か1日だけの命だった。お互いを思いやるが故にぶつかってしまう二人だったが、二人は1日だけの命を選ぶ決断する。
 その夜に降るエンジェルスノーは静かでとても暖かかった。
 厚生労働省が医療機関を対象に行った調査では、実際に不妊治療を受けている夫婦は推計30万組。治療により子供を授かった夫婦数に関する全国的な統計データは存在していないが、不妊治療実施施設への取材から推定した数値は50%になるという。
 治療の結果がおもわしくない場合でも、難事に直面したからこそ夫婦の絆がより強くなることもあれば、そうではなく、逆の結果を招くこともあるだろう。今回の作品は、前者にあてはまる夫婦の切ない物語だった。

 

光州5.18」<18-May>
 2007

監督:キム・ジフン 

主演:アン・ソンギ/キム・サンギョン/イ・ヨウォン
 
 1980年5月に起きた光州事件を描いた実話。
 光州事件は、1980年5月18日から27日にかけて起こった民主化を求める活動家とそれを支持する学生や市民が韓国軍と衝突し、多数の死傷者を出した事件のことをいう。1980年5月31日の戒厳司令部発表では、死亡者数は170人(民間人144人・軍人22人・警察官4人)、負傷者数は380名とされていたが、2003年1月の韓国政府の発表では、死者207人、負傷者2392人となっている。
 作品はこの10日間のできごとを双方の視点を交えて描いている。市民の日常には、仕事や娯楽、そして恋愛や希望が溢れている。政府軍により平穏な日常生活が破壊されていく様子がリアルにスクリーンに映し出される。
 民主化運動と政府軍による鎮圧描写がある他作品にもあてはまることなのだが、泣き叫び逃げ惑い、そして銃弾に倒れていく民衆の姿を見るたびに強権政治の恐ろしさを感じずにはいられない。

 

フライ・ダディ」<FLY, DADDY, FLY>
 2006 

監督:チェ・ジョンテ 

主演:イ・ジュンギ/イ・ムンシク/イ・ジェヨン
 
 作品は、岡田准一と堤真一の主演で映画化された金城一紀の「フライ,ダディ,フライ」のリメイク。
 まじめな普通のサラリーマンが、娘を殴った悪質高校生のボクシングチャンピオンに立ち向かうお父さん賛歌の物語。お父さんは、家族思いのまじめでひたむきな人に描かれていると同時に、コミカル的な要素も持ち合わせた寛容な人物としても描かれている。シナリオは悪対正義のシンプルな構成。笑いあり感動ありありの上質なエンターテイメントに仕上がっていた。

 上記3作品のほかにも、
「まぶしい日に」<MEET MR. DADDY>
「アパートメント」<APARTMENT>
「私のちいさなピアニスト」<FOR HOROWITZ>
「ノートに眠った願いごと」<TRACES OF LOVE>
「My Son あふれる想い」<MY SON>も秀作だった。
 ちなみに、アパートメントはホラー作品で僕の考える最高のホラー定義を備えていた。その定義とは、幽霊や怪物、超常現象や悪魔より怖いのは人間であると思っている故に、主人公は人間であるべし。そして、血や肉が飛び散るような残酷なシーンは使われていないいことである。つまり、視覚的な恐怖やスプラッタは不必要であり、あくまでも人間が主人公で、かつ、じわじわとしみいってくるような心理的圧迫感を醸成させてくれるシナリオが僕の定義する最高のホラーとなる。