2006年7月16日

 僕が◎をつける作品には少なくともいくつかの共通点がある。

 そのひとつは、制作された作品に、社会問題へのメッセージが埋め込まれていることである。さらに主人公の「あきらめない」「逃げない」「立ち向かう」という姿勢が描かれていること、があげられる。これらの条件が揃ってくると、◎へのハードルは決して高いものではなくなってくる。
 ◎作品の脚本傾向としては、まず、本人が関わり抱えている何らかの問題描写から始まる。そしてそれらの問題をよりリアルに描写した迫害や嫌がらせのシーンが続く。ここまでの状況で、主人公にとってはかなり絶望的である。しかし、その後そんな逆境にもめげず、主人公の相手に対する対決姿勢の意志はかなり強固なものになり、そしてひとりで立ち向かうことを決意する。が、やはり多勢に無勢、状況に変化は起こらず、むしろ状況は悪化する。それでもあきらめない主人公の真摯な姿に周囲の人々が共感し協力し、最後は主人公の粘り勝ちとなり大団円を迎える。

 

スタンドアップ」<NORTH COUNTRY>

2005年/アメリカ 

監督:ニキ・カーロ 

主演:シャーリーズ・セロン

 

は、まさに◎の条件にぴったりとあてはまる作品だった。
 この作品は、全米で初めてセクシャルハラスメント訴訟に勝った実在の女性をモデルに制作されている。作品概要は、子どもを持つシングルマザーが生活を営むために、当時は男の職場とされていた鉱山でいち労働者として働くのだが、そこでは職を女に奪われると考える男の労働者から、悪質な嫌がらせを毎日のように受け、精神的に疲弊していく。そしてあることがついに引き金となり女性に対する労働環境の改善に向けて訴訟を起こすことを決意する、というものだ。


 作品の中であるテレビ中継が放映されているが、これこそまさに、1991年、全米で注目された実際の公聴会の模様だった。

 この公聴会は、1982年から1990年までEEOC(Equal Employment Opportunity Commission 雇用機会均等委員会)の委員長でありEEOCガイドライン(*後述)に署名までしたクラレンス・トーマスのセクハラ疑惑についてだった。
 彼は1990年にブッシュ大統領より最高裁判事に指名された人物だ。疑惑の内容は、1980年代前半に当時助手をしていた黒人女性アニタ・ヒルにデートの誘いを断られた彼は、彼女に対しセクハラを行ったとされたものであったが、結果として双方の証言を裏づける決定的な証拠は提出されることはなかった。結局判断は上院議員に委ねられ、52対48の小差で彼は最高裁判事に承認される。


 セクシュアル・ハラスメントは、1970年代のアメリカにおいて公民権運動とともに力を得たフェミニズム運動の中で生まれた造語だが、背景は1960年代にある。それは、女性の社会進出、公民権法運動の高まり、避妊薬の開発、女性運動にともなった社会の性、家族、仕事に対する考え方などの変化だった。


 フェミニストたちが、セクハラに対処するべくよりどころにした法律は、1964年に制定された公民権法第7編(雇用における差別を包括的に禁止する連邦雇用差別禁止法)だった。

 この703条(a)では、人種、皮膚の色、宗教、出身国そして性別を理由に、使用者や労働組合などが雇用上の条件や権利に関して差別的取り扱いを行うことを違法な雇用差別として禁止している。

 この条項は性差別よりむしろ人種差別の是正を目的として提案された法律であり、セクハラ禁止を明文化しているものではなかった。今でもアメリカには、セクハラを規制した法律は存在しない。しかし、1980年のEEOCガイドラインでは、セクハラは公民権法第7編の性差別であると規定し、1986年のVinson事件では、連邦最高裁がEEOCガイドラインを追認する判決を出したことにより、セクハラは公民権法第7編違反の性差別となる、というのが通釈となっている。
 セクハラに取り組んでいるNOW(全米女性機構 National Organization for Women)の活動も見逃すことはできないが、さらに長文になってしまうので割愛する。

 

*EEOCガイドライン
セクシュアル・ハラスメントが公民権法第7編違反の性差別になるのは下記の場合であると規定。 (関連箇所のみ抜粋)
(a)
性に基づくハラスメントは、公民権法第七編第703条に違反する。不快な性的誘惑 に応じる ことの要求及びその他の性的性質を有する口頭もしくは身体上の行為は、以下のよ うなセク シュアル・ハラスメントを構成する。
(1)
かかる行為への服従が、明示もしくは黙示に、個人の雇用条件を形成する場合
(2)
かかる行為への服従もしくは拒絶が、その個人に影響する雇用上の決定の理由として用いられる場合、または、
(3)
かかる行為が、個人の職務追行を不当に阻害し、または、脅迫、敵意、もしく不快な労働環境を創出する目的もしくは効果をもつ場合」

 

 一対多でありながら、家族を守るために、そして人間としての誇りを失わないために戦い続けた主人公のジョージー。闘志は自然に沸くものではない。考えもがき苦しみぬいた人のみが導くことのできるもの、それが闘志。

 彼女の場合、目的のために自ら闘志を導き、そして勝った。彼女が勝利を掴めたのは、偶然でも運でもない。まさに不屈の闘志がすべてだ