2012年8月1日

 

 

 心に重石を載せられたまま4時間30分が過ぎていった。喪失感や無常感がこれでもかと襲ってくる、どこまでも悲しい2作品を続けて観てしまった。
 「息もできない」<BREATHLESS >(2008/韓国 監督:ヤン・イクチュン 主演:ヤン・イクチュン/キム・コッピ/イ・ファン)と「悪魔を見た」<I SAW THE DEVIL>(2010/韓国 監督:キム・ジウン 主演:イ・ビョンホン/チェ・ミンシク/オ・サナ)だ。

 正直なところ、ここまで重い作品とは思わなかった。
 「息もできない」は、開けそうになる未来を前にしたひとりの男とその男を取り巻く人々のあまりにも悲しい物語だ。
 「悪魔を見た」は、天性の殺人鬼と、すさまじいまでの復讐心を持たざるを得なかった男との、命と執念を懸けた究極のデスゲームと呼べる物語だ。
 とにかく2作品とも暴力描写は半端ではない。言葉使いはもちろん、表情も感情も、あの怒りの行動も、すべてが本当としか思えないほどのリアルさに圧倒されてしまった。
 僕がかつて観た作品で、ここまで感じさせられた作品は数本に過ぎない。それを立て続けに観てしまったのだから、観終わった後は憂鬱な気分になってしまった。
 
 作品として見てみると、「息もできない」については、主人公が暴力漢になってしまった経緯がしっかりと描かれていたため、暴力を肯定することはできないが、高い確率で彼の人生はこうなってしまうのだろう、という思いを抱くことができた。
 一方、「悪魔を見た」については、なぜ殺人鬼になってしまったのかの経緯描写は一切ない。極悪を超越した彼の描写により、彼は生まれたときから残虐性を秘めていた子供であり人間だったと、ほとんどの観客は思うだろう。
 しかし意外なことに、殺人鬼には12歳前後くらいの子供がおり、子供は殺人鬼の父母である、おじいちゃんとおばあちゃんと暮らしている(子供の母親がスクリーンに現れることがなかったため、どういう経緯で息子が誕生したかはわからない)。この作品は非常にバイオレンス色が強いのだが、僕に喪失感や無常感を抱かせた描写のひとつは、実はこの息子と祖母の登場にあった。見事な伏線だった。

 2作品ともまったく未来のないただただ悲しい作品のため、この手の作品が苦手な方は絶対に観ないことをお勧めする。

 「息もできない」では、男と女子高生との奇妙な交流が描かれている。二人とも新しい人生の灯りを見つけようと、不器用だが次第にお互いを理解し寄り添っていく様には、胸を熱くさせられた。寄り添う二人の描写があまりにも自然で当然の過程であったが故、僕はこの作品から人生の無常さやはかなさを感じてしまったのだろう。悲しい作品ではあるのだが、すばらしい作品であることは間違いない。