2012年9月3日

 

前回、「ロードムービー」「差別」のキーワードでくくれる作品、「ふたたび swing me again」(2010/日本 監督:塩屋俊 主演:財津一郎 /鈴木亮平)を取り上げたが、今回は、

 

「マイネーム・イズ・ハーン

<MY NAME IS KHAN>

2010/インド 

監督:カラン・ジョーハル

主演:シャー・ルク・カーン/カジョール)だ。

 

マイネーム・イズ・ハーン」概要
 純粋な心の持ち主であるアメリカ在住のイスラム教徒ハーンはアスペルガー症候群だ。ふとしたきっかけで、12~13歳の子供を持つバツイチでヒンドゥー教徒のマンディラと出会い結婚する。しかし、9.11事件を機に大きな不幸が二人を襲う。マンディラはハーンとの結婚を後悔しハーンへの別れを告げる。ハーンにはその理由がよくわからなかったが、マンディラのある一言を実行するために家を出る。イスラム教徒というだけで差別され弾圧される厳しい状況下ではあったが、マンディラとの再開に向けたハーンのロードムービーが始まる。

 

 この作品を観て、すぐに思い浮かんだのはノーマン・ミネタという名前だった。名前からもわかるように日系二世だ。

 

 ミネタ氏は、1908年(明治41年)に渡米した両親のもと、カリフォルニア州サンノゼで2男3女の末っ子として生まれ、第二次世界大戦中、ワイオミング州の日系人収容所に収容された経験を持つ。
 ミネタ氏は、1953年、カリフォルニア大学バークレー校ビジネススクール学士課程を卒業し、同年、米陸軍に入り日本や韓国で情報将校を務めた後、父親の経営するミネタ保険会社に勤め、1967年サンノゼ市会議員に当選する。
 1971年にはハワイを除く米本土では日系人として初めて、大都市サンノゼ市長に当選し、1974年にはやはり米本土では初めて米国下院議員に当選する。
 1995年まで20年以上にわたって下院議員を務め、その間大部分は運輸委員会に所属した。
 その後、ロッキード・マーティン社副社長を経て、2000年から2001年までビル・クリントン政権で商務長官。2001年から2006年まで共和党のジョージ・W・ブッシュ政権でも運輸長官を務めている。
 2001年9月11日に発生した米国同時多発テロ事件では、米国史上初めて全民間航空機の緊急着陸を命令した。2001年11月、ミネタの地元のサンノゼ国際空港は、ミネタの長年の功績を顕彰して、同空港の正式名を「ノーマン・Y・ミネタ・サンノゼ国際空港」と改称した。
 現在はヒル&ノールトン社の副会長を務めている(ウィキペデイア)。

 

 僕がミネタ氏の名前を思い浮かべたのは、2011年8月15日、NHKで放送された『渡辺謙 アメリカを行く 「"9.11テロ"に立ち向かった日系人」』を観ていたからだった。
 番組紹介サイトでは、次のように紹介されている。
「発生から10年たったアメリカ同時多発テロと、開戦70年となる太平洋戦争。2つの歴史的事件を結ぶ知られざる物語を、ハリウッドで活躍する俳優・渡辺謙がたどる。ロサンゼルス、ニューヨークなど1年以上をかけた渡辺の旅。そこからは、テロ発生で"イスラム系"への差別・偏見が渦巻くなか、戦争中の強制収容という過酷な体験をもとに、強い信念を持ち、正義を貫いた日系人たちの姿が見えてきた」

 

 9.11後、アメリカの空港では、特にアラブ系、イスラム系に対し厳しいチェックが行われていた。当時、このracial and ethnic profiling(人種・民族のプロファイリング)施策は世論からも支持を得た。
 この反イスラム、反アラブは、かつてミネタ氏がワイオミング州の日系人収容所で経験させられた反日差別と同じ構図といえるだろう。

 人種・民族のプロファイリングに異議を唱え非難されたミネタ氏は次のように述べている。
「アラブ系、イスラム系アメリカ人は、全ての国民と同じだけの尊厳と敬意をもって接せられます。外見や肌の色で、判断されることについて私は実体験として知っています。日本人が祖先である私の歴史は、両親の精神力と強い志、そして日系アメリカ人が直面した不当な扱いの数々から成り立っています」
 
 結果として、運輸長官であるミネタ氏の揺るぎのない強い意志により、搭乗時のセキュリーティチェックは、アラブ系、イスラム系に関わらず、全人種・民族が同等のチェックを受けることになる。
 自身の確固たる信念のもと、racial and ethnic profilingに真っ向から反対し結果を出したミネタ氏のドキュメンタリーは、実に見ごたえがあり、感動すら覚えた番組だった。

 この番組と、「マイネーム・イズ・ハーン」が僕の中で突然リンクしたことにより、「マイネーム・イズ・ハーン」の評価が増したことは間違いない。もちろん、ミネタ氏のドキュメンタリー番組を観ていなかっとしても、この作品への評価が高いことに変わりはないのだが。