2013年9月15日

東京原発

2002/日本 監督:山川元 

主演:役所広司/段田安則/平田満

 

 <公式サイトより>
【東京に原発を誘致する! 
 突如飛び出した都知事の爆弾発言に都庁はパニックに陥った。推進派、反対派それぞれのもっともらしい意見が入り乱れて会議室は戦場と化し、議論が白熱する中、強引に原発誘致を推し進めようとするカリスマ都知事の真の狙いが明らかになる…。
 一方、お台場にはフランスから海路極秘裏に運ばれてきた大量のプルトニウム燃料が到着していた。政府は反対派の抗議運動を避け、そのプルトニウムを一般道路で福井県の原発へ運ぼうとしていたが、それを運ぶトラックが爆弾マニアの若者にジャックされてしまう。
やがてトラックは時限爆弾を仕掛けられて都庁に向かっていた。もし、爆弾が爆発すれば、東京だけでなく日本全土が広く被爆する未曾有の大惨事になることは明らかだった。果たして都知事はこの絶対絶命の危機を乗り切ることが出来るのだろうか!?】

 

この作品は2002年に制作されているのだが、今だからこそ実に旬の作品といえる。
天馬都知事から召集がかかり、局長たちは「東京に原子力発電所を誘致する」と突然告げられる。
知事の考え方の基本には、「東京は最も電力を消費していながら、それを生み出す原子力発電所など負の側面は地方の過疎地域に押しつけている」がある。しかし、知事の本質的な狙いと考えがわかってくるのはもう少し後。


スクリーンでは、この発言に対する討議が、途中参加の東大教授も入り、まじめでありながら、どこかとぼけた調子のやりとりとして続けられる。このやりとりが、非常に鋭角効いたブラックユーモアになっているため、作品としてのポイントを高めている。

 

作品で語られる原発の安全性、危険性に関するデータについての正確性については、ここでは触れない。ひとつの事象に対し、起きた原因や結果の良し悪しを検証、立証するために持ちいれられるのがデータだ。
ある事象の正当性を立証する方法としては、不都合なデータを使用せず、好都合なデータのみを使用する手法や、データ作成の基になる前提条件を恣意的に構築するという方法などがあるだろう。

恣意的な前提条件の操作は捏造と呼ばれるが、今年も多くの捏造事例が紙面を賑わせた(記憶に新しいものとしては、製薬会社ノバルティスファーマが販売する降圧剤を使って京都府立医大の松原弘明元教授が行った臨床研究について、大学側は論文のデータに人為的操作があったと発表している。降圧剤の効果を強調するためのデータ改ざんとみられている)。

 

原発の安全性、危険性について作品で語られたデータについては、誤っているといるとの指摘もあるため、気になる方には自身での検証をお勧めする。

原発事故を100%防ぐことはできないというのは周知の事実だ。福島で証明されてしまった。
この事故原因を分析し特定したとしても、拡散された放射能汚染が100%除去されることはない。想定外、という言葉の空虚さを福島の原発事故で感じざるを得なかった。

 

作品では登場人物に原発の安全性と危険性を語らせることで、鑑賞者に情報を披露し原発に対する問題意識の醸成を試みていた。現実離れしたトラックジャックのエピソードは、もっと真剣に詰めるべきだったとは思うが、それでもエンターテインメント性を付加することで、鑑賞者を飽きさせまいとする努力をしていた。
エンターテインメント性は別としても、テーマと言う観点からは、間違いなく一見の価値ある作品と言えるだろう。

 

1980年くらいに広瀬隆氏の「東京に原発を」を読んで以来、ほかのジャンルも含め彼の作品を読んでいるが、監督はきっとこの作品を読んでいるだろう。