2009年9月28日

 

 

社会派ドラマを観ることで、内外を含め現実に起きている問題の根の深さを改めて認識することは多い。今日取り上げる4本は下記の通り。

◆ 「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」
アメリカ、I.C.E.(移民税関捜査局)捜査官が日々直面する不法移民問題と、
アメリカが抱えているテロの問題

◆ 「ボーダータウン 報道されない殺人者」
アメリカと国境を接するメキシコの街フアレスで起きた、資本主義が招いた500件を超える女性連続殺人事件

◆ 「ストレイドッグス ~家なき子供たち~」
アフガニスタン、カブールが舞台のタリバンの父をもつ貧困の兄妹が送る日々

◆ 「13歳の夏に僕は生まれた」

 不法移民を乗せた密航船に救助された裕福なイタリア少年と不法移民の兄妹との友情、そして現実

 

 正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」<CROSSING OVER>
2009/アメリカ 

監督:ウェイン・クラマー 

主演:ハリソン・フォード/レイ・リオッタ/アシュレイ・ジャッド
 
 不法就労により一斉摘発を受け強制退去になってしまった幼児を抱えるメキシコ人母ミレヤ、女優を目指すためにグリーンカードの判定官と関係を持ってしまうオーストラリア人女性クレア、高校の授業で、9.11テロについての発言が問題となり、家族にまでその影響が及んでしまった高校生タズリマ、イラン出身でI.C.E.捜査官ハミードの、アメリカ文化に溶け込んでいる妹ザーラ殺害の真相、の4つの出来事が綴られている。
 根幹にあるものは、不法就労とテロ。
 不法就労問題は、不法就労者を生んでしまうその国の経済政策問題でもある。テロに関してみれば、やはり国そのものの宗教や主義というとても複雑な問題に突き当たる。翻って日本を見てみると、船を使っての密入国や、パスポート偽造による成りすましなどが発生してはいるが、アメリカほどではない。裏を返せば、日本という国自体に魅力が少ない、ということとも取れる。
 ちなみにこの作品の監督は南アフリカ出身で、自身もアメリカでグリーンカード(永住権証)を取得した移民である。とても見応えのある作品だった。

 

ボーダータウン 報道されない殺人者」<BORDERTOWN>
2006/アメリカ 

監督:グレゴリー・ナヴァ 

主演:ジェニファー・ロペス/アントニオ・バンデラス
 
 舞台のメキシコ、シウダー・フアレスは、NAFTA(北米自由貿易協定)により関税がかからない街で、米国資本による米国向け製品をつくる工場群が立ち並ぶ。資本による利権を貪るのは、街の企業家、アメリカ、メキシコ双方の政治家だ。また、警察も犯罪者や企業家に買収されている。
 この街では、資本の増加と共に女性が犠牲となる殺人事件が急増し、行方不明の女性は数千人にも及ぶと推計されている。行方不明あるいは殺害された多くの女性は、メキシコ各地から集まった貧しい先住民の低賃金で働く少女たちで、いまだに真相は解明されていない。
 このような事実を元にこの作品は制作された。
 作品ではシカゴの新聞社で働く女性記者ローレンが、この街で起こっている連続女性殺害事件の取材を命じられ現地へと向かい、腐敗した警察や政治家の圧力に抗することなく反政府系新聞社エル・ソロを経営しているかつての同僚、ディアスと事件を追う。そんな中、殺人者に襲われながらも奇跡的に生還した少女エバの証言をもとに、事件の真相究明に乗り出す、というものだ。
 作品は一部の資本家だけが得をするために、多くの少女たちが犠牲になっている現実がリアルに描かれている。実話であるからこそ、怖い。
 長い間、このような現状をアメリカの報道機関は伏せてきた、あるいは、情報がなかったのかは定かではないが、それこそ他の作品にあるような、資本主義の恩恵に与っている人たちによる意図的な隠蔽工作があったのでは、と疑いたくもなる。
 いったい、誰がどこまで関与しているのだろうか。大きく言えば国家ぐるみ、小さく言えば、行政官、あるいは、せいぜい街の有力者なのかはまったくわからないが、いずれ事実が判明したときには、「大統領の陰謀」タッチで、是非、続編を制作してもらいたい。

 

「ストレイドッグス~家なき子供たち~」「13歳の夏に僕は生まれた」は、次回取り上げることにする。