2007年9月30日

 

前回、人類の月面到達を目標としたアメリカアポロ計画を描いた「フロム・ジ・アース」を取り上げ、僕のお勧めアポロ計画もの作品もあげたが、またひとつお勧め作品が増えた。

 

月のひつじ」<THE DISH>

2000年/オーストラリア 

監督:ロブ・シッチ 

主演:サム・ニール

 

という実話に基づく作品だ。

 この作品の舞台は、1969年7月のオーストラリアにあるパークスという田舎町だ。アポロ11号を打ち上げ月面歩行に成功したのはアメリカだった。しかし、その人類初の月面歩行の映像を捉え生中継で全世界に送信したのが、オーストラリアのシドニーから西に約400kmほどに位置し、南半球で最大口径64mのパラボラアンテナ(電波望遠鏡)を持つパークス天文台だった。
 当初、全世界に向けたNASAのテレビ放映計画は、カリフォルニア州ゴールドストーンにある設備を利用して月からの映像を捉えようとしていたのだが、打ち上げスケジュールが遅れたためにアメリカで電波をキャッチすることができなくなり、その結果として2番目の候補地である田舎町のパークスとなった。
 作品は天文台を舞台に、NASAから派遣された科学者とパークス天文台に勤務する4人の奮闘する姿を中心に描いているが、技術的要素で固めたような堅苦しい物語ではない。これら主人公たちのほかにも重要な脇役として何人か登場するが、どの人たちも非常に好感度が高く、のんびりした田舎町という舞台にふさわしい。
 この作品は、実話として世紀の大イベントが、人のいいのんびりした人たちの住む町で実際に開催されたという事実そのものにより、すでに映画として十分な素材を持ち合わせている。それに加え、既述の登場人物が加われば、自ずとして僕の評価は高くなる。
 作品では決しておしつけがましくない明るく元気な人生訓が、いくつかのエピソードとともに描かれている。館長がNASAにある虚偽の報告をしてしまうのだが、結果としてチームをより強固なものにする。まさにピンチの後にチャンスありである。しかし、このエピソード、日本では間違っても絶対に起こらないだろう。だがパークスでは実話である。お国柄の違いがよくわかり、このような感じ方や見方も映画ならではだろう。


 この作品を観るまで、あの月面歩行映像がオーストラリアの天文台で捉えられていたとはまったく知らなかった。この事実を知りながら「フロム・ジ・アース」を観ていたら、さらにあの歩行映像を見たときの感慨は違っていたかもしれない。ちなみに、パークス天文台は1961年に開設されており、天文台可動式の電波望遠鏡では、ドイツ・ボンの100m鏡、イギリス・ジョドレルバンクの76m鏡に次ぐ世界第3位の大きさである。