2012年5月1日

 

以前のコラムで、個々の物語がやがてひとつに収斂していく作品に惹かれる、と書いたが、

 

愛する人

<MOTHER AND CHILD>

2009/アメリカ・スペイン 

監督:ロドリゴ・ガルシア 

主演:ナオミ・ワッツ/アネット・ベニング/ケリー・ワシントン/サミュエル・L・ジャクソン)

 

もまた、この部類の作品に入る秀作だった。

作品概要
『カレンは14歳で妊娠してしまい、母親によって強制的に赤ちゃんを養子に出されてしまう。それから37年、今ではその母親を介護しながらも、我が子を奪われたことへのわだかまりを捨てきれず、37歳になった実の娘に想いを馳せる日々。一方、生まれてすぐに養子に出され、母の愛情を知らずに育ったエリザベスは、弁護士として成功はしたものの、他人に心を許すことができず、男に対しても肉体の関係以上に深入りすることはなく、このまま孤独に年を取っていくと考えていた。ところがある日、会社のボス、ポールとの情事で予定外の妊娠をしてしまう。戸惑いとともに、初めて実母の存在を意識し始めるエリザベスだったが…』


 出産時を除き、母と娘の接点は一度もなかった。その境遇が、他の人に対して心を開かせないという傷を二人に負わせてしまう。ここまでが、作品前半といっていいだろう。中盤からは、今までにない新たな展開が二人に起き、いっきに終盤へと向かう。
 この作品はハッピーエンドと呼べる作品ではない。それもそのはずで、母の呵責・自責の念、娘の慟哭・人に対する不信感が基調にあるからに他ならない。ただ、あのような結末がセッティングされたことで、幾分か気持ちは楽にはなった。

 作品に対する僕の評価は○で、ナオミ・ワッツ、アネット・ベニングの演技によるところが非常に大きい。
 126分の中で、ナオミ・ワッツ演じるエリザベスに、心からの喜びの顔や笑顔は一度もない。あるのは、ただその日を生きているだけという表情のない顔だった。同時に、虚無感、退廃感、不遜さ、傲慢さがたびたび登場し、本当に嫌な女と思ったほど、実に見事だった。彼女はこれまで32本の映画に出演しているが、僕としてはこの作品での演技がベストと思っている。
 アネット・ベニングは、人を寄せ付けない表情や言葉や態度、不遜さを持った嫌な性格者として前半は描かれていたが、中盤以降は、呵責に苛まれながらも新たな人生に歩み始める女性を演じている。悲嘆にくれた表情から歓喜の表情、そして優しい微笑みまで緩急自在に演技をしている。彼女はこれまで21本の映画に出演しているが、僕としてはこの作品での演技を1番に上げる。
 
 一度も会うことなく別々の人生を送った二人だったが、会いたいという二人の思いは時を超え、そして形を変え結実したと思いたい。

ナオミ・ワッツ

「J・エドガー」(2011)
「フェア・ゲーム」(2010
「愛する人」(2009)
「ザ・バンク 堕ちた巨像」(2009)
「ファニーゲーム U.S.A.」(2007)
「イースタン・プロミス」(2007)
「ナオミ・ワッツ プレイズ エリー・パーカー」(2005)
「ステイ」(2005) 出演
「キング・コング」(2005)
「ザ・リング2」(2005)
「夫以外の選択肢」(2004)
「ハッカビーズ」(2004)
「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」(2004)
「ケリー・ザ・ギャング」(2003)
「21グラム」(2003)
「ル・ディヴォース/パリに恋して」(2003)
「ザ・リング」(2002)
「ダウン」(2001)
「マルホランド・ドライブ」(2001)
「ユニコーン・キラーを追え」」(前・後編)」(1999)
「娼婦ベロニカ」(1998)
「監視」(1996)
「ラスト・ウェディング」(1996)
「スティーブン・キング/アーバン・ハーベスト2」(1996)
「タンク・ガール」(1995)
「マチネー/土曜の午後はキッスで始まる」(1993)
「ニコール・キッドマンの恋愛天国」(1990)

アネット・ベニング

「キッズ・オールライト」(2010)
「愛する人」(2009)
「明日の私に着がえたら」(2008)
「ハサミを持って突っ走る」(2006)
「ミセス・ハリスの犯罪」(2005)
「華麗なる恋の舞台で」(2004)
「ワイルド・レンジ 最後の銃撃」(2003)
「2999年異性への旅」(2000)
「アメリカン・ビューティー」(1999)
「IN DREAMS/殺意の森」(1998)
「マーシャル・ロー」(1998)
「マーズ・アタック!」(1996)
「リチャード三世」(1995)
「アメリカン・プレジデント」(1995)
「めぐり逢い」(1994)
「バグジー」(1991)
「心の旅」(1991)
「真実の瞬間」」(とき)」(1991)
「グリフターズ/詐欺師たち」(1990)
「ハリウッドにくちづけ」(1990)
「恋の掟」(1989)
「大混乱」(1988)